2005年 10月 02日
最初に収められている短編「MENU」を読みながら連想したのが、村上春樹。いや、作風云々じゃあなくて、この山田詠美という作家からも村上春樹という作家からも等しく感じるものがあって、それは本当のところはわからないけれど、二人とも趣味がいいんだろうなあってこと。 よく、あの人の音楽の趣味はいいなんて言い方するけど、その辺の感じでもあり、それだけでもなし。評者は音楽のことはよくわからないが、多分この二人の作家、いい音楽を聴く世界を持っていると思うよ。 洋服の趣味がいいとかよく言うけど、あれとは違う。あれは、センスがいいわけで、センスのいい作家ならたくさんいるわけで、このお二方、やはりそういう意味で他の作家とは区別される趣味のいい自分の世界を持っている人たちなのだと思う。 評者が最近思っているのも、趣味のいい読書をしたいということ。でも、趣味のいい世界を築きたいならば、やはりそこに必要なのは余裕。今は、新作は読みたいし、ミステリーでもなんでも面白いものを読んでいきたいし、過去の名作も読んでいきたいし、てんで余裕のないところ。全ての情報がシャットアウトされ、軽井沢あたりの別荘でおいしい空気と潤沢な時間と適度な湿度あたりを与えられないと叶わないと思ってしまうのは、これは評者が小人だからか。多分、自分の世界を築ける、いい趣味を持てる人っていうのは、情報の洪水に曝されても、自分の大事な部分を着々と築ける人なんだろうな。 で、趣味のいい読書、もしくは読書の趣味がいいという世界をもう少し考えたとき、電脳世界を見渡しても、中々そういう方はいらっしゃらない。結局、読み手とか、評価に対する評価とか、もっと低俗にアクセス数とか、そういうものを気にせずにはいられない世界なので仕方がないのかな。面白い新作をどんどん読むのも結構。それなりにアクセスされて評価もされるだろうけど、それは趣味を離れた主義の話であって、やはり主義よりは趣味の持っていきかたにこだわりたいと思う最近の評者。多分、山田詠美に出会い、島田雅彦に出会い、その前には村上春樹に出会っていたりして、村上春樹の長編作品を過去に遡ってコンプリしたわけで、そうした時に新しく、そして今更出会った山田詠美や島田雅彦をどうしてくれよう、どうすればいいのだろうか、そんなあたりから今ある読書スタイルや傾向を見つめ直しているんだろう、って自分のことだけど。 本書の中の作品群、一言で斬っていけば「MENU」にはキレと新鮮な感覚、「検温」には言葉や表現の可能性、「フェイスタ」には他視点からの場面の切取り、「姫君」には個人的ながら評者をくすぐる感性(町田君や阿部君が今まで与えてくれたものと評者的には同質)、「シャンプー」には軽くて鋭い若さの感性が盛り込まれているのだな。 今後、読み続けていくであろう、この山田詠美という作家の特徴を考えたとき、まだ2作目ながら(初山田詠美は◎◎『PAY DAY!!!』)こういう風に感じている評者。親と子という登場人物が出てくる作品は幾本もあるだろうけど、多分この作家の視点は子供のほうに置かれるだろうということ。この人の持つ趣味のいい世界観からこぼれだすものは、多分、まだ感性が固まっていない若い視点に軸足を置いたままだから。評者より3歳上の作家。その作風が変わることはあるのかな?その頃には、評者の感性もまた変わっているのだろうな。(20051002) ※次の山田詠美作品は『アニマルロジック』の予定(^.^)(書評No576) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-10-02 09:21
| 書評
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Comments(4)
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from 大きくなったら
at 2007-07-27 12:34
タイトル : リズム
『フィエスタ』 作=山田詠美 (文藝春秋刊『姫君』所収) 今回の『フィエスタ』は、山田詠美さんの短篇小説をそのまんまセリフとして上演するという試みです。一人称とはいえ、やはり小説は戯曲とは違い、演劇化するには工夫が... more
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きな
at 2005-10-02 16:59
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詠美姐さんは、昔 山田双葉の名前でまんが描きだった頃からのファンでした。
まんが誌で見かけなくなって何年かして、『ベッドタイムアイズ』の冒頭を読んだ途端に分かりましたよ、「これはあの双葉だ!帰って来たんだ!」って。あの時の嬉しさは、いまでも良く覚えています。 聖月さんがおっしゃる「趣味がいい」というの、分かります。彼女はどんなに下品になっても下劣にはならないんですよね。 文学だけでなく、生き方の信条そのものに、自分なりの「踏み外してはならない」一線がある人なのだろうと思います。 品性のある人。その辺り、田辺聖子さんとも共通しているような気がします。 ここのところちょっとご無沙汰しているのですが、レビューを拝見して、また読み出そうと思いました。 駿河の国にいらっしゃる前に是非一度呑みたいですねー。よろしくお願いします<図々しく^^
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きな姐 是非、駿河に参国する前に飲みましょうね(^.^)
しかし・・・へえ、山田詠美にそんなマエがあったのしりませんでした。 元々、特に興味を持っていなかったからかな、へえ漫画屋さんだったんですか。漫画でも面白そう。 うん、読んでいてこの人趣味いいだろうなあって。でも、セックスの趣味は・・・ついていけないかも(^^ゞ 田辺聖子も未読なんですが、似ている部分があるのですね。 顔の雰囲気は全然似てないようですが。松田聖子とも・・・
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hERMAIONE
at 2005-10-03 10:46
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あら、何時の間にemy様を読むようになられたの?
昔からのファンとしては、嬉しい限り。 私の憧れなのですよ、詠美様。 趣味のいい作家というのは、さすが聖月様!的を得た上手な表現。 アニマル・ロジック、待ってますね。
おお、ハーマイお兄さん いらっしゃいませ。
エキサイト書評コンテスト投稿用に『PAYDAY』を読んだら、これがたまんなくよくって(^.^) いい出会いから始まったので、気に入ったのでした。 何か違うのから入って、駄目だったらと思うと、本当によかった。 『アニマル・ロジック』もう図書館にとりおき中なのです(^.^) |
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