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「本のことども」by聖月

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2005年 10月 20日

◎◎「柳生薔薇剣」 荒山徹 朝日新聞社 1680円 2005/9


 縁(えん)とか縁(えにし)とか一口で言っても、そこには様々な種類の縁が存在するような気がする。

 例えば、司法試験とか憧れの大学を何回も受けて、結局は自分の身の丈にあった進路を選ばざるを得なかったとき、親戚知人が、もしくは本人が“縁がなかったんだよ”と慰めもしくは言い訳の言葉を口にするのは、これは縁ではない。能力がなかっただけ、もしくは努力が足りなかっただけの話である。

 例えば、人気作家やプロ野球選手が、その実力は認められているものの、中々賞とかタイトルというものを取れない場合も、縁がないなんて言葉を使うかも知れないが、これもTPOに合った努力が足らない結果ではないのかな。

 結局、評者は何が言いたいのかというと、縁なんて奪いとる、もしくは手繰り寄せるものだと思っている。男女の縁(えにし)の場合は特に。だから、ここぞというときはそれなりの献身にも似た努力を怠るべきじゃないと思っている。グイグイと手繰り寄せて、それでも叶わなかったときにこそ、それこそ縁がなかったと諦めるしかないんじゃないのと、中年の主張コンクールで言いたいのである。それを、近頃の若い男女なんて、ちょっとしたことで縁があったと勘違いして結婚なんかするものだから、しゃあしゃあと別れ、しゃあしゃあとまたバツイチよなんて言いながらも結婚して・・・離婚したらお祝い金は返せ~!と評者は中年の主張を声高に叫ぶ者なり。男女の縁は作るものである!あるものではない!包んだ金返せ~!・・・いや、金返せというのが主張ではなかった(^^ゞ縁を感じたら、その縁を成就させよと主張したかったのである。

 で、現代なら、結ばれた男女も、縁がなかったのに結ばれたと感じたときは、離婚なんてものをすればいいのだが、江戸時代にはそうはいかない。男のほうは離縁を申し付ければいいのだが、例えば結ばれてみたら旦那が凶暴で俗悪な男とわかったとしても、女のほうから縁の解消を申し込むというのはご法度である。法に触れるのである。じゃあ、いかんともしがたいかというと、実はそこに縁切り寺という存在が浮上してくる。

 縁切り寺には、寺法というものが存在する。いわゆる治外法権というやつで、寺に三年間入ることで、俗世間の法からは離れ、寺法により離縁が成立するというものである。ところが、この縁切り寺というものがコンビニみたいにどこでもあるというものでなかったわけで、本書『柳生薔薇剣』の場合は、肥後熊本の女性が鎌倉の地にある寺に駆け込むところから物語は始まる。それだけの距離を移動しなければいけないわけだから、追っ手がいるとさあ大変。最後には追いつ追われつデッドヒート。縁切り寺に駆け込まねばならぬ。だから、別名駆け込み寺。でも、これも少しだけ救いがあって、簪(かんざし)でも草履でも寺内に投げ込むことが出来たなら、駆け込み成立というのだから、世知辛い話の中にも少しだけ粋あり江戸文化なのである。

 その寺への駆け込みを、図らずとも手助けした侍こそ、柳生矩香(のりか)。柳生十兵衛の姉である。薔薇剣(そうびけんと読む)と称される腕前に薫り立つ秀麗さ。敵を鮮やかにそしてザクザク斬り捨てる。簡単に言えば人殺しなのだが(笑)、生きるかどうかの当時の世相の中、その描写は痺れるシビレル、カッコイイ。とにかく、この矩香の奮闘に痺れ続けながら読んだ評者なのである。

 一方、十兵衛の描写が可笑しい。今まで重厚な描写一本槍できた、荒山徹の新境地。この十兵衛、そそっかしいのである。落ち着きがないのである(笑)。父上、俺の出番がないやんけと悔しがったりするのである。

 「わたしを助けてね、十兵衛」「ゆるしてね、十兵衛」、本書内で矩香が十兵衛にかける言葉だが、今までの荒山徹にない、軽くも愛らしい会話文。う~ん、自分も秀麗でカッコイイお姉さまに言われてみたいぞとは、中年評者の胸中主張。

 いつもの荒山節と変わらぬのは、物語が朝鮮半島と日本を舞台にしているところにあるが、今回のこの物語の舞台はほとんど日本。これまで荒山徹を読んだことなかったというビギナーにも、読みやすくて楽しめるお薦めの一冊である。今年の押さえ本。(20051018)

※最後の最後には恋愛物。縁は強い力で手繰り寄せるものなり(^.^)(書評No582)

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by kotodomo | 2005-10-20 05:26 | 書評 | Trackback(3) | Comments(8)
Tracked from たきたき感想部屋 at 2005-12-31 20:48
タイトル : 荒山徹「柳生薔薇剣」感想
 「薔薇剣」と書いて「そうびけん」と読みます。なんで薔薇なのかというと・・・  ... more
Tracked from 図書館で本を借りよう!〜.. at 2006-02-18 11:05
タイトル : 「柳生薔薇剣」荒山徹
「柳生薔薇剣」荒山徹(2005)☆☆☆★★ ※[913]、国内、時代小説、江戸時代、剣豪、妖術、柳生一族、朝鮮、徳川家 冬枯れた鎌倉に旅をする二人の武士の姿。ひとりは六十年配の老人。もうひとりはすらりと上背があり咲き誇るような若さが全身から馥郁と発散される若者。東慶寺、通称縁切り寺の前で、数人の武士に追われる老婦人と出会い、助けた。そして、物語は始まる。 本読み人仲間で、最近江戸を離れ、駿府に移られた聖月さんオススメの一冊ということで手に取った。むむむ。いや、これは・・・。 想像...... more
Tracked from 個人的読書 at 2006-10-05 23:39
タイトル : 柳生薔薇剣
荒山 徹 柳生薔薇剣 「柳生薔薇剣」 荒山徹・著 朝日新聞社・出版 『所謂、伝奇時代小説ど真ん中』  日本と朝鮮を絡めた時代小説をフィールドワークにする 荒山さんの小説です。  ちなみに本書、「やぎゅうそうびけん」って読みます。 (ずーっと「やぎゅ... more
Commented by Hermaione at 2005-10-20 09:59 x
山田風太郎っぽくて面白そう。
図書館で探してみよう!
Commented by 聖月 at 2005-10-20 15:30 x
妖術も出てきて楽しいこと、楽しいこと。
是非是非、図書館で。読むべしですぞ。
Commented by たきたき at 2005-12-31 20:51 x
初めまして。TBさせていただきました。今作がはじめての荒山徹作品です。こちらのブログを読んで、他の作品も読んでみようと思いました。
Commented by 聖月 at 2005-12-31 22:18 x
たきたきさん 初めまして
荒山徹、デビュー作からして凄いですよ。
荒山徹のことども含めてTBしときますね。
初期の三作、とにかくはずれなし。
要はデビュー作を完読するかどうかで決まりそう(^.^)
Commented by すの at 2006-02-18 11:08 x
聖月さん、ちょっと褒めすぎじゃないですか?ぼくは、この作品、残念ながら評価できませんでした。聖月さんが書く”縁”の物語が成立できていない気がしたのですが・・?受け取り方、人それぞれということでTBさせていただきます。
Commented by 聖月 at 2006-02-18 12:09 x
ははは、誉めすぎ。
この人の作品コンプリしてますから、色んな思い入れがあるのです。
逆に評判高い『十兵衛両断』はイマイチでした。
意見や感じ方は色々ありますから、コメントなしでTBでもいいですよ(^.^)
いやあ、実はこのとき、プライベートで色んな縁があって、その影響が出た書評なのです。うふふ。自己投影。うふふ。
Commented by すの at 2006-02-18 12:27 x
プライベートでの縁?素敵な美貌の女剣士との出会いですか?いいなぁ奥さんに言いつけてやろう(笑)。
Commented by 聖月 at 2006-02-18 12:45 x
ふふふ、颯爽とした女剣士でした、ふふふ。
縁(えにし)なり。過ぎ去った時なり。

言いつけてやってください。たまには嫉妬させてください。安心しきっているから(笑)


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