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2005年 12月 27日
偉そうな言い方を許していただければ、一人の作家の作品を読み続けていると、“来たな!”と感じさせる作品がある。偉そうなというのは、文章の世界において、例えば東野圭吾みたいな天性の物語作家に対して、評者がああだこうだいう程の立派な人物でないことは自覚していても、『容疑者Xの献身』ような作品に出会うと“来たねえ、東野クン”と思うわけである。個人的な作品の好みとしては『白夜行』なんかのほうが、評者は好きなんだけど、ああいう完成度を持った作品が、作者も完成度を感じながら世に出たりすると“来たな”と思うのである。本書『砂漠』を読み終えて、やはり“来たねえ、伊坂っち!”と思ったわけで、そういう意味で、この作家のマイルストーン的作品、もしくは到達感のある作品だと個人的には感じるのである。案山子がいい人も、ピエロがいい人(評者はこのタイプ)も、ギャングがいい人も、アヒルがいい人も、殺し屋がいい人も、とにかく色んな好みを持った読み手がいるわけだけど、この作品はそれらの好みを収斂してしまうような完成度がある。一番いいとは言わない。評者にとって一番いいのは本書なのかピエロなのか判然としないが、万人の感性へ向けた完成度が本書のほうが高いと思うのである。 学生生活描写小説として読み始める。そしてそこにはやはり伊坂流伊坂節がある(評者は早いうちからこの言葉を使っているが、伊坂作品には伊坂節と呼べるものはないと思っている。それは明確な節ではなく、独特の持ち味みたいなもので、そういう意味で伊坂流伊坂節のほうがしっくりくると思っている)。その独特の表現による浮遊感が心地良い。そして、学生生活描写小説を楽しんでいると、少しいらんことを考えてしまうわけで、この小説での伊坂の企みは、作者の仕掛けはどこにある?それともないの?なんて思ってしまうわけで・・・ちゃんとある!楽しみに読め!途中、少し違和感を持って読んでいた箇所が、終盤もっと大きな違和感にぶつかったときに企みに気付くわけで、やはりこの作家の場合のそれは、“やられた”とかミステリーのそれではなく、“なあんだ”と思いながらの爽快感かな。とにかく読むべし、べし、べし、べし、の作品である。 ただし、本書で随分と描かれる麻雀とボーリングの描写は、牌も触ったことありません、麻雀のルールや役、全然知りません、ボーリングしたことありません、スコアの付け方わかりません、そういう読者には理解度が今ひとつの部分が多いだろう。幸いにも評者は主人公たちと同じく法学に学びながら(途中感じた違和感のひとつに民事訴訟法という単語がある)、麻雀に明け暮れ、デートといえばボーリングという時期もあったので、非常に映像的に読めたが。映像的といえば、本書で久々にボーリング場を映像的に思い出したわけで、そういえばボーリングって、なんで右レーンと左レーンとあるのにタマが出てくるとこは共有なのだろう、他人同士で共有・・・そういえばタマが中々戻ってこないということもしばしばあったなあ、タマが行方不明になるミステリーってどうよ?そいでもってそのタマの中に麻薬かなんか、もしくは座薬でもいいけど、そんなのが仕込まれていたって話はどうよ?『座薬麻薬娯楽場快楽殺人事件』なんて題名でどうよ?といらんことばっかり考えながら、読書に励んでいたのである。 本書には、砂漠で雪を降らせる云々の格言というか行動指針が出てくるが、評者的に言わせると、学生よ!まずは砂漠に雪が降った記録があるか、そこらへんから調べよ!と言いたい。地球って意外に神秘的な星だからね。(20051226) ※最近読んだ伊坂作品の中で、再読候補の№1かな。(書評No609) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-12-27 09:37
| 書評
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Trackback(24)
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Comments(26)
よかった(^^
年末年始は図書館閉まるので、思い切って買ったんですよ、コレ。 読むのが楽しみ~♪
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なんだぃ、聖月どんも読んでたんだね。夕べ読み終わったから、今日あたり何か書けるかなぁ、って思ってたのに、もう先に延ばそうっと(笑)。
そっかぁ、私も法学部に学んだものとしては学生時代そのもの、の感じもあって良かったんだけど、あのね、実は私結構真面目だったので?!(笑) 麻雀もボーリングも殆どしてないのよ。だからその辺があって、ピエロと比べたらどうか、と言われると…やっぱりピエロがいいかも;となるのでした。それ以外は◎。やっぱ伊坂くん、好きだわん☆
ザ・ワールドさん こんにちは
いやあ、よくできたお話でした。 作者の企みなんかが無かったとしても、普通小説として随分と楽しめる一冊。 そうですか、学生時代なんて、あっという間のモラトリアムな期間。 私なんか5年もいましたが(^^ゞ
おお、ぶひさん 高校時代同級生のぶひさん。
昨日一年のとき一緒だった重田カオリンとデートしてました。 彼女が言うには、斉藤さん、その次の差益さん、美人が並んでいたよね♪なんてとぼけたこと言っていたので、言下に否定してあげました。 いや、礼はいらない。 法学部ネタ。民事訴訟法のような手続法、自分の場合、いつ習得したやろ?なんてところが引っかかった聖月様なのでした。
えー、カオリンとまたデート? いいにゃぁ、あの細いウエストはまだ健在なんだろうなぁ…手を出さないように(笑)。
並んでたじゃんか。斎藤さんも、カフカ少年の彼女も、美人だったじゃないでえすか。礼など言わぬわw。 民訴法、何か粗筋的にひっかかったのかと思ったー^^。労働法関係が一番イヤだったけど、手続法は結構好きでした。この作品では、1年生でもうやるのか?って、私はそれがちょっと引っかかった(昔と色々違うのかなぁ、大学課程も)。先生が民訴も刑訴も素敵だったから。結構楽しんでとりましたよ〜。 なんてことは、まるでない。
いやねえ、パチンコで買っていたんでねえ・・・
居酒屋行こうっていうのを寿司屋 コーヒーでも飲もうかっていうのを秘密の・・・うくく。 ミンソホウ、粗筋的には充分ひっかかります!!! 三年生の履修科目を東北地方では一年から?みたいな。 作者間違ってんのみたいな。でも間違ってなかったみたいな。 あのね、凄い素敵だよ。あのウェスト、あの姿勢(^.^) ああ、カラオケも行った(^.^)
やっと書きましたので、TBさせて頂きましたっ。だらだら書いて、読み直してません; あとで見直します;
これから、家で焼肉なのだ! 君が焼肉、焼肉、というので食べたくなった(笑)。 (TB、一度エラーメッセージが出たのでやり直したりしてます。重複してたら消してね☆)
だらだら書いて、読み直さないのが一番楽でよろしい。
キミが君というからキミと呼ばせていただくが、キミやタマさんは聖月チルドレンで、ああ書評ってこんなアホな感じで書いてもいけるんだという世代なので、それでいいのですですです。 今夜のメニュー?鹿児島ラーメン小金太のカップバージョン。 明日の朝食は豚トロラーメンのカップバージョン(^^)v そいでもってパチンコ(^^)v
聖月さん、新年おめでとうございます。スーパーサラリーマンは「大勢の女性との交際、麻雀、でたらめな読書」ができないのですね(笑)。北村、鳥井、西嶋、・・・聖月さんはどのタイプでしたか?莞爾もありです。私は南かな、超能力者なので(笑)。今年もよろしくお願い致します♪
おーっ!! ホスト礼一!! そうですよね(笑) うん、うん(爆)
高校時代に、キミは将来ホストになるべきだと、喫茶店のマスターに言われたことがあります(笑)
トラキチさん ほぼ復帰されたようで(^.^)
引越は終わりましたが、落ち着くまで時間かかりそうですね。 お店がどこにあるかもわかんないし・・・ いいですよ。バチスタ。このミス1位だった『容疑者Xの献身』よりリーダビリィティは↑
こんばんは。ご無沙汰です。
駿河に転勤されたのですね。お疲れ様です。おからだお気をつけください。 伊坂さんはやっぱりいいですね。ちょっと先ですが、次こそ、直木賞・・・!って皆思っているでしょうね・・・。
EKKOさん おはござです(^.^)
駿河いいとこですよ。鰹のたたきが美味くて(^.^) 伊坂はですね、『重力ピエロ』で早目の受賞してほしかった。 そうそう、こっちの図書館は伊坂本や新刊、結構借りられずに置いてあります。 でも蔵書が少ないので穴だらけって感じもしますが。
こん**は。TBさせていただきました。
思いますよね!「来たな」って。 これまでの伊坂作品でどれが好きかという個人的な問題はさておき、これは再び直木賞候補になっても良いのではないかと思うほど。 直木賞のことあまり詳しくないんですが、『砂漠』の場合、刊行のタイミングはどうなんでしょう・・・今年の候補になれると良いのですが。
こげぱんさん こんばんび(^.^)
個人的には好きな作品で、本当に来たな!と思っていますが、直木賞を取れないと思っています。 題材に、ボーリングと麻雀があって、そこのところがネックなかなあと。 多分、そういう意味で出版社もあげないんじゃないかと。よくわかんないんですが、素人的にそう思っています。 いつか本当に名作&万人に来たな!の作品を書く作家ですから、静かに待ってもいいのかなあと思っています(^.^) タイミング的には問題ない時期かと。
ボウリングとか麻雀、やっぱ古すぎですかね(笑)
でも、 >いつか本当に名作&万人に来たな!の作品を書く作家 そこは激しく同意します! タイミング的には問題ない時期ですしね。 伊坂さんからは、今後ますます名作が出てくるような気がして、 本当に楽しみです。
古すぎというか、どちらも知らない人には描写がよくわからないとこが、ネックかと。
特に麻雀。私はよくやっていたのですが、知らない人にはチンプンカンプン。知っているので、知らない人のためにどれだけわかりやすく描写しているのかがわからなかったのですが(^^ゞ あとですねえ、この人の大長編も読んでみたい。 砂漠の2~3倍くらいの(笑)
やっと、読了。いや、素敵な一冊ですね。この本はネットではなく、直接顔をあわせ、語りたい一冊ですね。、ね。
あ、うちは大船ですので、じゃぁ小田原、いや平塚で・・(笑)
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