2005年 12月 29日
著者に言いたい。おい、そっち行っちゃ駄目じゃないか。 世間的にも評判を呼んで、評者的にも好評だったデビュー作◎◎『となり町戦争』。あの作品に対する読者側からのスタンスが様々だったことは記憶に新しい。小説すばる新人賞というエンタメ系の受賞作品、その後直木賞候補にもなったりと、それなりの光跡を残したのだが、別の方向からの批判に、粗筋がイマイチだとか、物語にインパクトがないとかいう声も聞こえる。 結局これはどういうことかと言うと、『となり町戦争』自体は一種のエンタメアートなんだけど、決して大衆文学ではないということである。だから直木賞候補になったのはおかしいと思うし、そういうつもりで物語を読んだ人は肩透かしを食らうわけで、つまるところ評者が思うには、この作家、文芸作家であり、その綺羅やかな描写でいつか芥川賞などをと思っていたのである。が、しかし・・・ おい、そっちへ行っちゃ駄目じゃないか、である。あの『となり町戦争』のパラレルで近未来のような異世界を描く、そんなのは一つの手法だとばっかり思っていたら、本書『バスジャック』の中に納められた短編たちは、どれもパラレルで異世界なものばかり。もっと極端な言い方をすれば星新一的作品と、小川洋子箱庭世界的作品ばかりである。結局、何がいけないかと言うと、そこには手法しかなくて、読まれる物語がないのである。ないというと語弊があるか。読まれる物語が希薄なのである。 例えば中編と呼んでもいい90頁程の作品「送りの夏」。車椅子に乗るマネキンと暮らす人々を描いた世界なのだが、この設定だけで奥深さを出そうとしても無理な話で、評者は読みながら“わかった、わかったから、物語よ、早よ、終われ”と呪文を唱えながら読むことになったし、一番最初の『二階扉をつけてください』なんて、ショートショートやん、星新一やん、それがどうしたんやんと、やんやん思いながら読むことになってしまった。 最初で不思議な世界を提示し、その不思議に紛れた謎で引っ張って読ませる手法の作品群。そんな作家じゃないと思うのだけどなあ。そっち行っちゃ駄目じゃないか。不思議な設定だけで物語を作っちゃ駄目じゃん。ちゃんと綺羅やかな描写を織り交ぜながら、普通に話を紡ぐだけで物語の世界を構築できる作家なんだからさあ。 よく考えたとき、デビュー作はアマチュアのときの作品であり、本書はプロになってからの初めての作品集ということになる。駄目なのは集英社の担当者のほうなのかなあ?(20051229) ※関係ないけど、年末の読書予定は、『風味絶佳』山田詠美読んで、『アンボス・ムンドス』桐野夏生読んで、そいでもってハリポタ4上下巻に突入しながら年越し。1/2にハリポタ映画鑑賞じゃ。(書評No610) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-12-29 11:05
| 書評
|
Trackback(5)
|
Comments(2)
Tracked
from 粗製♪濫読
at 2006-01-17 19:05
タイトル : 『バスジャック』 異次元のインパクト
著者:三崎亜記 書名:バスジャック 発行:集英社 笑劇度:★★★★★ 『となり町戦争』で第17回小説すばる新人賞を受賞した三崎氏の2作目。 ・ある日、私は町内会のオバサンに「2階扉をつけるように」と注意された。「町内でお宅だけ」とのことである。(「2階扉をつけてください」) ・最近「バスジャック」がブームになっており、今、私もそのさなかにいる。(「バスジャック」) ・私は動物園に仕事にやってきた。その内容は珍しい動物の展示である。(「動物園」) 先週の週刊文春で藤田香織氏...... more
Tracked
from 図書館で本を借りよう!〜..
at 2006-02-15 16:48
タイトル : 「バスジャック」三崎亜記
「バスジャック」三崎亜記(2005)☆☆☆★★ ※[913]、国内、現代、小説、ショートショート、短編、中編、シニカル 「となり町戦争」[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/3167077.html ]で架空の町の公共事業としての「戦争」をシニカルに描き、すばる新人賞を受賞、話題を読んだ作家のデビュー二冊目の作品集。「二階扉をつけてください」 「しあわせな光」 「二人の記憶」「バスジャック」「雨降る夜に」「動物園」「送りの夏」ショートショート、短...... more
Tracked
from 本を読む女。改訂版
at 2006-02-27 17:55
タイトル : 「バスジャック」三崎亜記
バスジャック発売元: 集英社価格: ¥ 1,365発売日: 2005/11/26posted with Socialtunes at 2006/02/25 バスジャック特設サイト 「となり町戦争」の三崎さんの第2作目。皆さんの感想は見事に賛否両論。 絶賛か、がっかりか、どっちか。それですごい気になっていた本。 「となり町戦争」って、読むと「なんかすんごい小説やな」ってわかるんだけど、 正体不明な部分が多くあったと思うんですよ。いきなり出てきた浅田真央みたいな?違うか。 この作家...... more
Tracked
from ぶっき Library...
at 2006-07-02 06:20
タイトル : バスジャック (三崎亜記)
7編収録の短篇集です。 そこそこ楽しませてもらいましたが、こうして感想を文章にすると、微妙なニュアンスになりそう。 話題になった前作『となり町戦争』と同じく、現実社会から少しずつずれた感じの架空の世界を舞台とした、シュール(非日常的・超現実的)でリリカル(抒情的)な物語たち。 キャッチフレーズ(?)はシュール&リリカルですが、メインはシュール。7編ともシュールな設定で、うち4編(『しあわせな光』『二人の記憶』『雨降る夜に』『送りの夏』)は、程度の差はありますが、作品の味わいのかなりの...... more
Tracked
from *モナミ*
at 2006-09-16 19:10
タイトル : 『バスジャック』 三崎亜記
ミステリーのような、SFファンタジーのような、 短編集。 どれも短いけれども、テイストの異なる、 それでいてピリっとくるシュールさは、 全ての作品に健在。 のほほーんと読んでたら、 最後に引っくり返されて、慌てちゃうかも。 一話目の『二階扉をつけてください』は、 『となり町戦争』と同じような、 それが周りでは当たり前らしいんだけど、 自分だけ知らない…というお... more
Commented
by
bibliophage at 2006-01-17 19:11
こんにちは。芥川賞バッチリでしたね!さすが聖月さん。
この本の評価は私と違って厳しめですね。「送りの夏」は確かにこの本の中ではイマイチかも。私はユーモア系の作品に惹かれました。
0
bibliophageさん どうもです(^^)v
この作家、不思議な世界を描きながら、小川洋子、村上春樹的にいくのかなと思ったら、いきなり全部SFチックな設定。 そうじゃなくって不思議にもきららかな文体でいってほしいもんだなあと。 そういう意味で『となり町戦争』私、大いに評価しております。ただし、直木賞じゃなく、芥川賞的作風で育ってほしいなあと。 |
アバウト
カテゴリ
ことどもカテゴリ
意外と書評が揃っているかもしれない「作家のことども」
ポール・アルテのことども アゴタ・クリストフのことども ジェフリー・ディーヴァーのことども ロバート・B・パーカーのことども アントニイ・バークリーのことども レジナルド・ヒルのことども ジョー・R・ランズデールのことども デニス・レヘインのことども パーシヴァル・ワイルドのことども 阿部和重のことども 荒山徹のことども 飯嶋和一のことども 五十嵐貴久のことども 伊坂幸太郎のことども 伊集院静『海峡』三部作のことども 絲山秋子のことども 稲見一良のことども 逢坂剛のことども 大崎善生のことども 小川洋子のことども 荻原浩のことども 奥泉光のことども 奥田英朗のことども 香納諒一のことども 北森鴻:冬狐堂シリーズのことども 京極夏彦のことども 桐野夏生のことども 久坂部羊のことども 黒川博行・疫病神シリーズのことども 古処誠二(大戦末期物)のことども 朔立木のことども さくら剛のことども 佐藤正午のことども 沢井鯨のことども 柴田よしきのことども 島田荘司のことども 清水義範のことども 殊能将之のことども 翔田寛のことども 白石一文のことども 真保裕一のことども 瀬尾まいこのことども 高村薫のことども 嶽本野ばらのことども 恒川光太郎のことども 長嶋有のことども 西加奈子のことども 野沢尚:龍時のことども ハセベバクシンオー様のことども 初野晴のことども 花村萬月のことども 原りょうのことども 東野圭吾のことども 樋口有介のことども 深町秋生のことども 『深町秋生の新人日記』リンク 藤谷治のことども 藤原伊織のことども 古川日出男のことども 舞城王太郎のことども 町田康のことども 道田泰司大先生のクリシンなことども 三羽省吾のことども 村上春樹のことども 室積光のことども 森絵都:DIVEのことなど 森巣博のことども 森雅裕のことども 横山秀夫のことども 米村圭伍のことども 綿矢りさ姫のことども このミス大賞のことども ノンフィクションのことども その他全書評一覧 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||