2006年 03月 31日
「姫川みかげの しゃんぶろう通信」のみかげさんに戴いた本である。いや、戴いたというと、みかげさんがチョイスした本かと誤解されるので、評者のチョイスで買って戴いた本である。何ゆえ買って戴いたのかというと、みかげんさんが前サイト開設からブログに移った期間を合わせて5周年という記念に、現役東大生の誰にも答えられないような超難問クイズを出して、それに評者が解答を寄せたというご褒美の品なのである。クイズとは“開設当初のサイト名はなんだったでしょう?”答えは“本だーらんど通信”。こんな答え、現役東大生の誰も知らんだろうなあ(笑)。 確か、3000円以内で一冊プレゼントという豪華枠だったのであるが、奥ゆかしい評者は882円の本をチョイス。だって、図書館に置いてなかったから。新刊書店で本を買っていない時期でもあったし。そんなものなのである。もしなければ別の本といって頼んだのも『七回死んだ男』西澤保彦という文庫本。だって、図書館に置いてなかったから。新刊書店で本を買っていない時期でもあったし・・・で、やっと読めました(^.^)みかげさんのサイン入り書店カバーのついた本書『試行錯誤』。 まずは出版年にご注目を。1972年とはなんと34年前。でも実際、本国イギリスで刊行されたのが1937年であるから、出版された年は、そこから35年後であり、結局評者は、自分が10歳のときに刊行された、そして今から69年前の作品を読んだわけである(ちなみに今でも本書は創元推理文庫の現役ラインナップである)。しかし、バークリーの作品は読む都度に思うのだが、時代背景は勿論当時を反映しているにしても、そこに書かれている物語はまったく色褪せていない。というか、今の国内ミステリーの大半よりは、新しく冒険心に満ちているし、当時の時点で、ありきたりのミステリーにアンチ感覚を持っていたバークリーの筆は非常に高踏的であり、余裕的である。昔でいうと夏目漱石。今でいうところの、町田康や奥泉光といったところか。言い換えれば『パンク侍、斬られて候』や『モーダルな事象』といったところか。帯に書いてある文言も正しいだろう。“奇想天外な設定、従来の推理小説を皮肉るようなユーモア、そして意外な展開-絶妙な冴えを見せる超傑作!” ところで、あなたなら大動脈瘤で余命3ヶ月と宣告されたら、残りの人生をどう過ごそうと考えるだろう。評者なら、勿論、四六時中家族と過ごし、たくさんの思い出を作ることに専念するが、それも今のような環境があるからに他ならず、本書の主人公のトッドハンターのように、中年を過ぎた独身者だったら、何をしたいのか思いつかないかもしれない。トッドハンターが思いついたのは殺人。根が悪い主人公ではないので、殺人といっても世の中の役に立つ殺人である。どうせ死ぬ身である。それなら社会悪と思われる人を殺して、世の中の役に立ちたいというのが、近々最期を迎える彼の決心となるのである。 ところが、本書の題名は『試行錯誤』。原題はトライアル&エラー。色んなことが、自分の思い通りにいかないのである。悪いやつ見っけ!と思っても、自分の手で殺すにいたらないし・・・それでも推理小説的に殺人は起きてしまう。犯人は勿論、主人公(かどうかも、どこかいまひとつ謎)。殺された人物は死ぬべき人物であり、世の中の役に立ったと思いきや、別の無実の人間(かどうかも、どこかいまひとつ謎)が捕まってしまい、こりゃ自分のために人様に迷惑がかかると警察に自首しても、警察は信じてくれない。ということで、自分が大動脈瘤で死ぬ(かどうかも、どこかいまひとつ謎)までに、この大問題を解決しようとする主人公の悪戦苦闘の物語なのである。 国書刊行会により、探偵ロジャー・シェリンガム物で知られる著者だが、本書はノン・シリーズ。しかしながら、シリーズの登場人物たちも、実際に、もしくは名前だけでも登場するので、高踏的、余裕的世界観はそのままの、楽しく真面目で不真面目な、推理小説なのである。最期にはちゃんとサプライズは用意されているし、そのサプライズに驚かされなくて、よくよく考えたときに主人公の決心に騙されていた自分に読者は気付かされるはずである。 文庫本500頁、飽きのこない色褪せない一冊である。アントニイ・バークリーの入門書としてはうってつけかな(^.^)読んでみるべし。(20060331) ※バークリー、手元にあって未読なのが、あと『毒入りチョコレート事件』1929年の作品である。(書評No638) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2006-03-31 22:46
| 書評
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Tracked
from 東大を目指すなら・・・
at 2006-05-10 16:23
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