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「本のことども」by聖月

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2004年 10月 10日

◎◎「雨にもまけず粗茶一服」 松村栄子 マガジンハウス 1995円 2004/7

◎◎「雨にもまけず粗茶一服」 松村栄子 マガジンハウス 1995円 2004/7_b0037682_15342192.jpg 聖月“最期の10冊”に本書『雨にもまけず粗茶一服』をセレクトしよう(この、わけのわからない賞の正体は既評『海辺のカフカ』に登場するぞよ)。

 ついでに、今年の必読書にも入れておこう。ジャンルを細かくわければ、ユーモア侘び寂び小説部門の第一位!って、他にそんなジャンルの本はないか(笑)。じゃあ、いつものやつでいきましょうかねえ。本書『雨にもまけず粗茶一服』は、万人向けの面白小説の決定版。読むべし、読むべし、べし、べし、べしなのである。すこぶる痛快、すこぶるお気楽、すこぶる満悦、すこぶるいとおかし、そして最後にはどこかしんみり。味付けは、風情、風流、そこはかとなく。

 読む前に勘違いしていたのだが、表紙絵からユーモア時代物かと思っていた。ところが時代は、現代。でもしかし、舞台はおおよそ京都で、世界も茶道、武道、弓道なので、表紙絵とも違和感のない設定でもある。ちなみに表紙絵の一寸法師みたいなかわいい人物が持っているのは、櫂とか針とかつまようじとかではなく、どうやら茶杓らしい。茶道のときに使う道具のひとつである。

 大学受験に失敗した主人公青年19歳。なんだかんだで、家出する。彼の家は、茶道の家元。継ぐ気もない彼は、友人と京都へ。そしてそこで、居候みたいな住み込みみたいな生活が始まり、京都の文化や生活に馴染んでいくのだが、実は彼には隠し続ける秘密が!!お茶(お点前)が出来ることが、彼の隠し続ける秘密なのである(笑)。なんやそれ?と思うかも知れないが、この味付けが抜群に面白い。印籠を隠し続ける水戸黄門、身分を偽る王子と乞食、ローマの休日の王女、スーパーマン、自分を隠すという物語は、やはり面白いのである。唯一の持ち物が、家を出るとき弟に持たされた、その筋の道具屋に売ればいくらの値がつくかわからないという、家宝のような茶杓というのも、場面、場面の小道具としてグッド。いやあ、実に面白かった。読むべし。

 興味がなくても面白いのが、茶道独特の作法や、世界観。ただ、茶あ飲んでるだけやないのだ。例えば、畳との関係。茶道では位置の確認のために、畳の目が大切。例えば、掛け軸との関係。お茶会のお題に合わせ、軸を選び演出を大切にする。その他、お茶会の花やお菓子にも色んな意味づけがあるのである。

 そして、一番の味付けは、京都弁。京都独特の言い回し。そんな本好きやあらへんというあなたは、相当なイケズかもしれん(笑)

繰り返しになるが、読書の楽しみここにあり。読むべし、読むべし、いとおかし。(20041010)

※題名に使われている「雨にもまけず」。評者はこの言葉をかつてある人物に贈ろうと思っていたくらい好きである(結局、贈っていないが)。うろ覚えの方のために、以下に引用。結構、意味の深い作品かと。(書評No414)



雨にもまけず  宮沢 賢治

雨にもまけず
風にもまけず
雪にも夏の暑さにもまけぬ
丈夫なからだをもち
慾はなく
決して瞋らず
いつもしずかにわらっている
一日に玄米四合と
味噌と少しの野菜をたべ
あらゆることを
じぶんをかんじょうに入れずに
よくみききし わかり
そして わすれず
野原の松の林の蔭の
小さな萱ぶきの小屋にいて
東に病氣のこどもあれば
行って看病してやり
西につかれた母あれば
行ってその稻の束を負い
南に死にそうな人あれば
行って こわがらなくてもいいといい
北にけんかや そしょうがあれば
つまらないから やめろといい
ひでりのときは なみだをながし
さむさのなつは おろおろ あるき
みんなに でくのぼうとよばれ
ほめられもせず
くにもされず
そういうものに
わたしはなりたい

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by kotodomo | 2004-10-10 15:34 | 書評 | Trackback(11) | Comments(10)
Tracked from Love Books at 2004-11-25 14:44
タイトル : 読了:松村栄子『雨にもまけず粗茶一服』
悪い人が一人も出てこない。どの登場人物も愛しくて仕方がない。 松村栄子『雨にもまけず粗茶一服』マガジンハウス。 雨にもまけず粗茶一服 松村栄子著... more
Tracked from Breezy days at 2004-11-30 23:54
タイトル : 雨にもまけず粗茶一服
松村栄子「雨にもまけず粗茶一服」マガジンハウス [Amazon] [bk1] ...... more
Tracked from Ciel Bleu at 2004-12-06 17:22
タイトル : 「雨にもまけず粗茶一服」松村栄子
 [amazon] [bk1] 色んな方にオススメされたこの本、評判にたがわず面白かった! 読み終わりたくないーって思ったのは久しぶり。 主人公は、弱小茶道家元...... more
Tracked from 本を読むって楽しい at 2004-12-28 13:18
タイトル : 松村栄子 『雨にもまけず粗茶一服』
雨にもまけず粗茶一服 松村 栄子 おもしろーーーい! 簡単に言うと、茶道や家元ってなんなの?なんで自分が継がなきゃならないの?と思っている現代の若者である主人公の成長物語です。 が!が! 主人公を含め、登場人物たちがみんな素敵。 遊馬は敷かれたレールに不満を持ちつつも、小さい頃から仕込まれた茶道やその他の所作が自然と身についていて、ちょっと軽い若者ふうではあるけれど、いいヤツなのです。 そして、遊馬の弟の行馬は頭脳派。家元となる兄を助けていくための教育を受けてはいるものの、実...... more
Tracked from Chocolat Books at 2005-01-13 21:40
タイトル : [読了本]
ISBN:4838714491:detail 茶道家元・友衛家のあとつぎを放棄して家出した主人公、遊馬くんの成長物語。 とても良くできたエンタメ小説。個性豊かで善良な登場人物たち。笑いあり泣きありちょっとした謎あり、最後まで飽きさせない。ストーリーとは関係ないけれど、きっちりした躾をされ、日本の文化を身に付けている主人公がとっても羨ましい。そのあたり、私のコンプレックスだったりするのよね・・・。... more
Tracked from でこぽんの読書日記 at 2005-03-16 17:50
タイトル : [読書]雨にもまけず粗茶一服/松村栄子
ISBN:4838714491:detail★★★★ 「本のことども」の聖月さんが、あまりにも大絶賛していたので、普通でしたら絶対手に取らないであろう本書を読みました。 私なんかの感想を読むより、聖月さんの書評を読まれたほうがずっと判りやすいので、先に読まれてくださいね。(はぁと) こちらです。 http://kotodomo.exblog.jp/498709 茶道が大嫌いな、家元のダメダメ息子が、家出して色々と苦労しながら、自分の立場に目覚めるというコメディタッチの物語です。 茶道のことが判らなくて...... more
Tracked from アン・バランス・ダイアリー at 2005-04-21 22:31
タイトル : 『雨にもまけず粗茶一服』 松村栄子 マガジンハウス
雨にもまけず粗茶一服 <武家茶道坂東巴流>の家元の長男である遊馬(あすま)は、家元を継ぐことに反発し、親のすすめる大学受験をすっぽかしてしまう。比叡山の寺に修行に出されることになった遊馬は、家出をし友人の家に転がり込むが、なぜか、忌み嫌っていた京都に... more
Tracked from 本を読む女。改訂版 at 2005-07-04 16:18
タイトル : 「雨にもまけず粗茶一服」松村栄子
雨にもまけず粗茶一服posted with 簡単リンクくん at 2005. 7. 4松村 栄子マガジンハウス (2004.7)通常2〜3日以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る 私もブログはじめへんかったらこの本ともよう会わんかった、なんて思うわけです。 ブログにきてくれはるみなさんのところへ遊びに行ったら あっちゃこっちゃでこの本を薦めてはる。松村栄子はんって 聞いたこともないけども、そんなあちこちでみかけるんなら それはさぞ面白いんやろなあ、と思うてこの本手にとっ...... more
Tracked from 今日何読んだ?どうだった?? at 2005-08-07 22:54
タイトル : 「雨にもまけず粗茶一服」  松村栄子
雨にもまけず粗茶一服posted with 簡単リンクくん at 2005. 8. 5松村 栄子著マガジンハウス (2004.7)通常2??3日以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る... more
Tracked from 小娘日記 at 2005-11-08 19:21
タイトル : 雨にもまけず粗茶一服(松村栄子)
人気blogランキングへ{/arrow_l/}雨にもまけずポチっとな {/new_color/}{/book/} 茶道友衛流の家元の長男である遊馬は、大学受験の日にコンサートに行ったことがばれ、父親に比叡山で修行して来いと激怒される。反発した遊馬は、弟の行馬に渡された茶杓を持ち、家出を決行するのだが・・・。京都で沢山の変人?と出会い、徐々に逞しく成長していく遊馬。恋や友情、お家騒動も絡む中、遊馬が取った行動とは!? 普段馴染みの無い家元の世界が、面白おかしく描かれています。ホント破天荒なので、全く...... more
Tracked from IN MY BOOK b.. at 2006-02-23 12:49
タイトル : ◆ 雨にもまけず粗茶一服 松村栄子
雨にもまけず粗茶一服松村 栄子 マガジンハウス 2004-07-15by G-Tools 正統派の青春小説でした。でも、けしてありきたりではなく、茶道界と、京都を舞台に、個性的なキャラクターが繰り広げる、コミカルなエンターテイメント。オススメです。 弱小武家茶道「坂東巴流」のあとつぎ遊馬は、大学浪人中。親は、将来家元になる彼に、茶道の本場である京都の空気を味わわせたいと、京都の寺で修行させる事を考えています。京都が嫌いで、跡継ぎにもなりたくない遊馬は、ミュージシャンを目指してふらりと家出する...... more
Commented by 四季 at 2004-10-13 06:46 x
わー、ほんとに面白そうですね。でも松村栄子さんって、うちのレスにも書いたけど、ばりばりのファンタジーも書いてる方なんですよー。聖月さんの感想を拝見してても、どうも同じ人とは思えなくて不思議です… まさか同じ名前の作家が2人いるわけはないですよね。痛快でお気楽なユーモア侘び寂び小説、大好き。いけずな京都人も大好きです。これはリクエストしなくっちゃ!
Commented by 聖月 at 2004-10-13 07:06 x
四季さん こんにちは。
そうですね、この人の略歴見ると、芥川賞作家。そいでもって、四季さん既読のファンタジーも書いていますね。
でも、同じ作家ですよ。題材とかではなく、作風とかの引出しがたくさんあるんですね。

そしてこの本『雨にもまけず粗茶一服』は紹介した通りの、風情情緒あるユーモア小説。ある書評家は青春小説とも言っていましたけど、そのくくりにするには勿体無いようなしっかりした作品であるかと。

こういう小説に出会うと、読書の楽しみの根幹に触れたような気がします(^.^)
Commented by sa-ki at 2004-12-01 00:05 x
こんばんは。この作品、すっっっごく面白かったです!
読んでよかったとしみじみ感じてます。
茶道部でしたが、当時は手順や道具の名を覚えるのがやっとで、
お茶を愉しむところまではいってなかったんですよね。
この本を読んで、はじめてお茶の愉しみを知った気がします。
おすすめしていただいて本当によかったです(^^)

また面白そうな本をチェックさせていただこうと思い、
BlogPeopleにリンクさせていただきました。
Commented by 聖月 at 2004-12-01 07:37 x
sa-kiさん こんにちは
素敵な作品ですよね。実は一昨日、この本買ったのです。
買って、友人の息子殿にプレゼントしました。
中学2年ながら、最近村上春樹とか古処誠二を読み始めたと聞き及び、
おお青春時代には、青春な本も読むべしと。

本当に人にお薦めしたくなる作品ですね。
sa-kiさんは、お茶の覚えは少しはあるようですから、私より色んな茶器のことに想像が難しくなく、楽しめたんじゃないでしょうか。
しみじみとした素敵なお点前の本でした。
Commented by 四季 at 2004-12-06 17:28 x
聖月さん、こんにちはー。
この作品、「このミステリーじゃないのはすごい」なんて良く分からない賞にも選ばれてましたが(笑)、遅ればせながら私も読みましたよ!いやー、面白かったです。これはいいですねえ。ほんと
素敵なお点前の本でした。最後の最後までやってくれますね! 読んで良かった。本当に。この本、買っちゃうかも。
それにしても、青春時代にこういう本をプレゼントしてくれる人がいるなんて、その息子殿、いいですねえ。その真価に気付くのは、ずーっと後のことでしょうけど。(笑)
Commented by 聖月 at 2004-12-06 23:22 x
おお!四季さんも読まれましたか(^.^)
いやいやいい本です。
なんせ、「このミステリーじゃないのはすごい」なんて良く分からない賞受賞作ですから。

おーい息子殿の小唄!見てるか!
面白いか、面白くないか教えろ~!
面白かったらお父様とお母様にも見せるんだぞ!

いや、多分真価わかるんじゃないでかねえ。
いい本がわかるのは大人の特権でもないし。
ああ、四季さん買っちゃうんですねえ、良かった本。
私の場合、大抵しばらくは買って人にプレゼントする行為になります。
こういう出会いのあとは。
Commented by 四季 at 2004-12-07 06:52 x
あらら、違いますよぅ。本の真価が理解できるかって話じゃないんです。
聖月さんみたいな人がいて、それでもって、こういういい本を
中学生というその時期にくれたということ!
もちろん今の時点でも、面白く読めると思うんですが
これから先、色々と読んでるうちに、「アレは本当にいい本だったなー」
って思うこともあると思うんですよね。
で、その本の背後には、優しいおじさまの存在が…(笑)
私の子供の頃の本棚って、父が買っておいてくれた本も多かったんですけど
それが今から考えても、すごいラインナップだったんですよね。
当時の本事情から見ても、私にとってみても最高なの。
で、今頃になって、その真価を噛み締めているという次第です。
…遅い?(笑)
Commented by 聖月 at 2004-12-07 07:38 x
これはこれは、とんだ勘違いを(^^ゞ
しかし、小唄君が影響を受けて、茶道の道を歩み始めたら面白いかも(笑)
私は、本を買ってもらっていたことがなかった(ToT)小学校のとき、お金が500円くらい貯金箱に貯まったので、あてもなく「本を買おう」と言ったら、母親に無駄遣いを窘められた記憶も・・・
購読していたのは学研の科学。何度も何度も読み返していましたねえ。だから、我が家の娘たちにはよく本を買ってあげています(^.^)
小さい頃の本って・・・もう一冊も残ってないなあ。なんか淋しい人生だなあ。
Commented by ココ at 2004-12-28 13:25 x
聖月さん、こんにちは~。
コメントとTBありがとうございました。
私、聖月さんのブログのファンでしたので、すごーく嬉しかったです。

タイトルの「雨にもまけず」ですが、どこで出てくるんだろう?と思っていたら
なんとなんと、あんな形で登場するとは、すっかり参りました。
この本は読めば読むほど味が出そうです。
図書館で借りたのですが、購入したくてなりません。
聖月さんのように、買ってプレゼントというのも素敵ですね。
この本はなんとかして、もっと広くオススメしたいと考えています。
Commented by 聖月 at 2004-12-28 15:51 x
ココさん こんにちは
え!隠れ女子高生ファン(笑)じゃないですね(^.^)

宮沢賢治の「雨にもまけず」これ自体が読めば読み込むほどいい味の文章だと思います。
「南に死にそうな人あれば
行って こわがらなくてもいいといい
北にけんかや そしょうがあれば
つまらないから やめろといい」
凄く現実的な表現で。

主人公が書いた最後の手紙。あれももう一回読み返さなきゃ(^.^)
部屋に張れば素敵かも。

幅広い年齢層の方にお薦めの良作ですよね。
今後ともヨロピクなのです。


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