「本のことども」by聖月

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2006年 07月 02日

◎◎「イレギュラー」 三羽省吾 角川書店 1260円 2006/5


 評者の出身高校は、鹿児島県立鶴丸高等学校という、県内随一の進学校である。どのくらい進学校かというと、校名をクリックすると現在の進学状況が表示されるので、数字上では大体わかるかと思う。評者のいた頃で、在学者500名、で東大進学者が25名を超えていたので、東京から遥か離れた鹿児島で、東大進学率5%超っていうのは中々のものだろう。ちなみに現在では少子化のため全校生徒数は370名くらいで21名の東大進学ということは、未だに進学校であることには変わりはないようで、ってな話は虎の威を借る狐であって、評者は東大などというつまらん大学には進学していない。在野の精神、学の独立を謳う、あの花は桜木、男は早稲田の法学部に現役合格ってなわけで、早稲田の法学部の現役合格率が当時18%だったということは、やはり聖月様は賢い上に大学までダンディなんだから、もう、まいっちゃう。

 いや、そういう自慢話がメインではなくて、言いたかったのは、鹿児島県立鶴丸高等学校は進学校であって、それは数字の上だけでの話ではなくて、例えば時間割的には7時限目が表面上の終業時間なんだけど、8時限まであったのか9時限まであったのか忘れたが、とにかく夕方まで授業があり、夏休みなんて、補習、補習、また補習で、お休みなんてお盆のときくらいで、そんなのはまだよくて、実際の授業はというと、例えば1時限目と2時限目の休み時間は10分なのだけど、1時限目の先生は授業を5分延長し、2時限目の先生は授業を5分早く始め、要するに1時限目と2時限目に先生が教室のドアのところで“ども”なんて軽く挨拶して入れ替わるだけで、休み時間なんてのはなく、2時限目の先生が“トイレに行きたい人は早く済ませなさい”というだけの実質“トイレ休憩のみあり”の日常風景なのである。まあ、元々鹿児島県自体が進学県であり、公立高校には修学旅行なんてものはなく、それゆえに評者は44歳にもなっていまだに奈良県というところに行ったことないし、奈良県が本当にあるのかも疑問に思っている。ついでにいうと、鶴丸を追い抜け追い越せと考えていた当時の2番手3番手の学校には0時限目というのがあって、朝の7時過ぎくらいから、正規の授業が始まっていたぞよ、およよ。

 そして、事件が起きたのが、評者が17歳の夏。27年前のお話。一学年上の3年生に、荒れ玉だけど速球派の投手がいて、打線はというと、進学校の見本みたいな打線で、まあ頑張って練習しているから1、2点は取れるかも程度の打線だったのだけど、投手が基本的に完封しちゃうものだから、あれよあれよと勝ち進んでいったのである。そして準々決勝に進むことになって、さあ大変\(◎o◎)/!高校野球の仕来たりとして、準々決勝からは全校生徒が応援に行くことに学校側が気付き、いつもハードな授業をこなしていた生徒は遠足気分に浮かれ出し・・・そして、そこで学校側も生徒もハタと気付いてしまったのである。うちの学校って応援団ないんじゃない?ブラスバンド部はあるけど、応援の演奏なんてしたことないんじゃなかったっけ?結局、準々決勝までの午後は、急造応援団を中心に全校生徒、応援の練習である。試合中の七回のしきたりや勝ったときのために、校歌なんかも練習練習。なんかお祭り気分で、みんな青春みたいな感じでさ。ついでにいうと、このときの応援団長が柳田理科雄という、後に馬鹿な本を書いて大いに売れた・・・なんか最近ではフジテレビ笑っていいともでもコーナーを持ったりして・・・そういえば、こやつと大学一年のとき近所に住んでいたわけで、馬鹿な話ばっかしていたなあ・・・という御仁であった。

 そして、臨んだ準々決勝。勝ってしまった。ピッチャーも相変わらず調子よくって、10奪三振くらい。みんな青春楽しいなあって感じ。そして、翌日、進学校らしい事件が勃発したことを知る。なんでも、地元テレビカメラのクルーが、“応援席でも参考書を開いている進学校の図”を生徒に強要したらしい。それに反発してひともめしたらしい。報告を受けた学校側が、正式にそのテレビ局に抗議することになり・・・これも青春楽しいなあ。

 翌日から、また準決勝に向けて応援、応援の練習。楽しいなあ、青春だなあ、この一体感。準決勝当日には、生徒同士“今日は、13奪三振!いや15奪三振だ!”なんて盛り上がり、夕刻の薄暮ゲームがナイターになってもっと盛り上がり、みんなで一緒になって三振の数を数えよう!なんて盛り盛りあがり・・・18奪三振完封で勝ったわけで、そりゃあみんな大いに喜んで青春で盛り盛り盛りあがりの歓喜の帰り道はもう夜道で、授業が遅くなって夜道を帰るのと違って、18奪三振を目撃したナイターの帰り道は、もうみんな青春ど真ん中。

 そして、決勝。対鹿児島実業。カジツ。もう、連日の熱投に投手もボロボロだったようで、初回から打たれっぱなし。3回終ったとこで、みんな負けを覚悟。5回コールドになるのかと思ったら、どうやら決勝戦にはコールドはないとの情報が・・・で、打たれっぱなし・・・確か、19対0で負けた青春決勝戦。でも、素敵な思い出をありがとうございました、投手の川口先輩。あのとき在籍していた全校生徒と、先生方は幸せでした。後に読んだ学校新聞に先輩は“あと1勝したら、考えてもいなかった甲子園に自分が行けるかと思うと眠れなかった”と書いていたのを見て、歓喜する自分たちとはまた違った重圧を背負っていたことを知りました。本当に、青春をありがとうございました。

 と、あまりに独白が長くなったが、高校野球は素晴らしい思い出がいくらでも紡げる題材。三羽省吾は、それを三羽省吾らしく青春という調味料を使って調理。ちょっと粗削りな表現や、テンポの立ち上がりに難は見られても、うん、この青春はいい。このハートウォーミングな登場人物たちは、大変にヨロシイ。この青春小説は、読むべしなのである。(20060702)

※あの夏と、江川のオールスター8連続奪三振は、からだが震えたなあ(^.^)(書評No654)


追記:実際に調べてみたら、記憶と記録が大いに違っていました(^^ゞ
      2回戦     3回戦    4回戦    準々決勝 準決勝  決勝

1978  加治工2-3 鹿水産3-6 鹿中央1-4 甲南2-4 末吉1-5 鹿実17-3

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by kotodomo | 2006-07-02 15:47 | 書評 | Trackback(13) | Comments(12)
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Commented by かつき at 2006-07-03 06:11 x
昔々の彼氏が鶴丸高校出身でした。そんな優秀な学校とは知りませんでした。アホでした。(あ、東京でつきあっていましたので)
さすがに27年前のことはわかりませんが、そんなことがあったんですね!
三羽省吾も野球も好きなので、この本も読んでみたくなりました~

Commented by 聖月 at 2006-07-03 08:37 x
かつき姉、鶴丸は学校は優秀かと思いますが、生徒はピンからキリまでの、いい学校です。

なんか、この本、読んでいたら、当時のことが思い出されてきて・・・でも、調べてみたら、えらいうろ覚え(^^ゞ
Commented by junharu_junharu at 2006-07-04 13:31
私も大学のころに付き合ってた彼氏が鶴丸高校出身でした。
テニスが上手なさわやかなスポーツマンで、なかなかのステキさんだったのですが、長続きしなかったんですよね~。
当時の苦い想い出がよみがえってきました。。。。
そんな私も2児の母。
早いものです。
Commented by 聖月 at 2006-07-04 13:57 x
junharu_junharuさん こんにちは(^.^)
鶴丸生、あっちこっちで活躍ですね・・・そいでもって、色んな人がお付き合いがありましたとカミングアウト!

誰か、私と付き合っていた!!なんて人も出てこないかしら?
晩生だったし、おふふ、うくく。
Commented by なな at 2006-07-15 20:54 x
聖月さん、はじめまして。
TBありがとうございました。
オモテ・ウラ共にこれからもどうぞ宜しくお願いします。
Commented by 聖月 at 2006-07-15 22:25 x
ななさん こんにちは(^.^)
表で飛ばしたり、裏で説明したりで御免なさい。
ななメモ・・・いつからから気付いていた名前です。
どうぞ、よろしくお願いします。
Commented at 2006-07-29 04:34 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 聖月 at 2006-07-29 08:55 x
鉄幹様 はじめまして(^_^)

実は、上の記事書いてから、あれ?っと思い、同級生に訊いてみたのです。
そしたら、ご指摘のような事実が浮かび上がってきて・・・でも、まあいいかで、記事の中身は放っておきました(^^ゞ
2回も決勝までいった事実が、今になってみると、1回のみの記憶にすり替わっていたのです。

でも・・・あの年の夏は・・・青春だったなあ。
Commented by Roko at 2006-08-27 00:18 x
聖月さん☆トラバありがとうございます
うちの近所の城東高校が、都立高校として始めて甲子園へ出たあの年、地元は異常な興奮状態だったことを想い出しました。
高校野球って熱いですよね!
Commented by 聖月 at 2006-08-27 08:13 x
Rokoさん おはござです。

高校野球はなんだかんだ熱くなりますね(^.^)
今年の甲子園も凄かった。
でも、もっと渦中にいたりすると大いに盛り上がる、そんなエネルギーを秘めた青春の塊みたいなものですね。
Commented by トラキチ at 2006-09-26 01:08 x
聖月さん、こんばんは♪
斉藤君や田中君より凄いコーキくん。
魅力的ですよね。
本当にエネルギーを補充できる作品を書き張りますね、この作家。
ちょっと写真とイメージが違っていたのですが(笑)

あと、ご投票いただきました第5回新刊グランプリの加点投票とクイズを実施しております。
月末までですのでお時間がありましたら是非お立ち寄り下さい。
Commented by 聖月 at 2006-09-26 09:45 x
トラキチさん お久しぶりです(^_^)
あ、写真、見たことないです。どんな顔だろう?聖月様みたいなイケメン?
ドラフトも高校生のセレクションが一番の見所ですね。
田中君も斉藤君も頑張ってほしいし。

はい、加点、時間をみつけてやりたいと思います。
クイズはいっつもはずれですが。


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