「本のことども」by聖月

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2006年 07月 09日

◎「竹千代を盗め」 岩井三四二 講談社 1890円 2006/3


 算盤勘定の話をしたい。

 評者が大学卒業と同時に就職した先は、トマトジュース、野菜ジュースのトップブランドの企業である。スーパーなどでは、この飲料を大安売りできれば目玉になる。結構なヘビーユーザーがついているブランドだからである。当時定価100円、消費税なしの時代に、まあ問屋へは70円で卸すわけで、たまには販促リベートなんかもつけて実質60円で卸したりもするわけで、でもメーカー側としてはその分は販促費用なんかに遣って欲しいわけで、決して末端価格の値崩れに繋がるような意図はしていないわけである。デルモンテよりは高いけど、やっぱトマトジュースといえばカゴメだね、と消費者に受け止めて欲しいわけなのである。あら、会社名出しちゃった(笑)。ところが、あるディスカウントスーパーに行くと、39円なんて値段で売られていたりするわけである。70円で卸したものは、問屋はそれより高く小売店に卸すわけで、小売店は儲けを出すためには、やはりそれより高く売らなければならないのに・・・小売店が出血大サービスの赤字覚悟販売をしているのだろうか?さにあらず。例えば、小売店はトマトジュースを100ケース@75円で仕入れる。他に投売りの無名ブランドサイダーを100ケース@10円で仕入れる。ついでに、無難に売れるオレンジジュースなんかを100ケース@20円で仕入れる。それをドンブリ勘定という器に入れてかき混ぜれば、あら不思議♪300ケース@35円で仕入れたことになり、39円で販売しても、1本あたり4円の儲けと相成るのである。小売店も、ちゃんと算盤勘定しているのである。

 一時期、全日空なんかが、当り飛行機に乗ったら、乗客全員タダになるキャンペーンをしていたことを憶えておいでかな。そんなことしたら、赤字じゃん!と単純にお思いなさるな。JALとかANAとかが、さあ夏だ!沖縄へ!だとか、さあ夏だ!涼しい大地北海道へ!だとか、必要以上の旅をしたことがない評者には五月蝿いキャンペーンをテレビCMやポスターなんか使って繰り広げているのが現実で、要するに航空会社が広告代理店を通じて使っている広告費用なんて、年間数十億か数億か忘れたが、とにかく凄い費用をかけているのである。それが、一機まるごとタダだと、せいぜい3万円×300人=900万なわけで、10機設定したとしても9000万なわけで、そんな金額で“もしかするとタダ?ならこっちの航空会社に乗るべ”“乗るばい”“乗っど”と費用対効果が望めればお安い広告なのである。航空会社も、ちゃんと算盤勘定しているのである。

 本書『竹千代を盗め』は忍者小説である。可笑しいのは、仕事の請負、条件の変更、アイディアの実現性、その度に忍者の惣領が算盤勘定をはじくのである。大金を持って、人質となっている殿様の奥方と子供を取り戻してほしいという依頼。おお、大金♪とすぐには安請け合いせず、旅費、宿泊費、一人頭の手間賃をはじき出して、これこれの金額じゃないと割に合わないと交渉する。途中で、条件が違ってくると、またしても算盤をはじいて、あとこれだけは必要と談判する。相手も相手で、それじゃあこういうこともするから半分の金額でできるだろうなんて応酬する。要するに、本書は忍者小説の形式をとったサラリーマン小説なのである。他にミステリーの要素(間者は誰?戦術の目的は?)もバランスよく配置され、程よい仕立てとなっている。惜しむらくは、作家が背景事情を生真面目に描写し過ぎて、戦国の世のパワー・オブ・バランスが、真剣に読まないと汲み取れない部分。ここらへんをもう少し軽い筆で描いてくれれば、時代物が得意でない評者にも、もっとわかりやすく読めたのかもしれない。

 忍者という職業がよくわからない方のために、少し無理があるが現代の探偵の料金を考えてみよう。手元にある資料によれば「ゲームソフト開発会社:社員が情報を外部に漏洩してスパイ行為をしているかどうか=140万」「OL:思いを寄せる男性に探偵社スタッフを近づかせて自分とその男性が出会えるよう工作=30万」「会社員:職場での人間関係に悩む会社員が、上司や同僚にどう思われているのかの自己の調査=30万」・・・さあ、これを高いと思うか、妥当と思うか。探偵の日当も出なきゃいけないし、場合によっちゃ食事をしながらの調査も必要かもしれないし、交通費もかかるだろうし、書類の作成代、証拠の写真なんかもいるだろうし・・・さあ、算盤勘定されたし、ニンニン。(20060709)

◎『月ノ浦惣庄公事置書』以来3年ぶりにこの作者の本を読んだが、いい作家と言われるべき作家の一人かと(^.^)(書評No655)

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by kotodomo | 2006-07-09 13:06 | 書評 | Trackback(1) | Comments(0)
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