2006年 07月 23日
文庫化されていたので再掲・・・やっと文庫化されたのね。↓随分と昔の書評なり。 本書は、映画化・テレビ化された「アナザヘブン」を著した二人の作者による、書き下ろしである。帯のコピーに"ホラー映像の旗手が描く新境地!"などと、訳のわからない表現がしてあるが、要するに"ホラー系で名高くなってしまった著者の作品だけど、ホラーじゃないよ"ということである。最初で言おう。傑作である。それも、大傑作。 読みながら、連続テレビドラマのことを考えた。新しい番組が始まると、先週までやっていた番組と比べて、面白くないような気がする。でも、しばらくすると、いろんな事件が主人公の周りで起こりだし、面白く感じ出す。ひとつの大きな事件が終息しても、また新たな問題が主人公を悩ます。そして、こちら側は、話に魅入らせられたまま、最終回を迎えることとなる。そんな感じの本書である。 流という名の男が、もう自分には生きる気力もなく、死んでしまおうと思いながらも、最後の晩餐は何にしようかと考え、歩いているところから物語は始まる。あそこの料亭にするか、それともあっちのレストランにしようかと。実は、この流という男はホームレスであり、晩餐というのも店が捨てた残飯のことである。そして、ある料亭に決め、残飯やゴミの傍らから、赤ん坊をみつけ拾ってしまう。そばにあった新聞紙の記事に、国連の事務総長のことが書かれてあり、そこから赤ん坊にアナンと名付ける。ホームレスの仲間もある程度協力しながら、アナンを育てていく。アナンには不思議な魅力があり、多くの人が思わず自分の秘密をアナンに打ち明けていくこととなる。人の秘密を吸収したアナンの脇の下からは、何故か青い結晶が出てくる。 どうだろう、この冒頭の設定、物語のでだし。非常に陳腐である。発想はわかるが、目新しさに欠け、読んでいても話に引き込まれない。またしても読むのをやめようかと思いながら我慢して読んだ。すると、ホームレスが赤ん坊を拾って育てていることを嗅ぎ付けた警察の手から、流とアナンが逃れていくところから、話は俄然面白くなり、その後の新たな事件や展開に、ワクワクして読み進めた。テレビドラマの番組初期の説明的な話が一通り終わり、次の展開に視聴者が引き込まれていくように。 流とアナンは別な町に辿り着き、そこのタイル屋の庭先に住まわせてもらうこととなり、アナンはタイルで手遊ぶほどに成長してくる。成長するにつれ、タイルを使ったモザイク画の才能を発揮する。相変わらず周りの人間は、自分の秘密をアナンに打ち明け続ける。 その後も、幽霊屋敷での出来事、宝探し、子供同士の陰湿な事件、初恋、旅立ちと新たな展開が、腹一杯になるまで出てくる、出てくる。やはり、共著ということで、二人でアイデアを出した所産なのかと感心した。 ドラマの最終回にあたる終盤も大詰め。はやる心を押さえながら、しっかりと読み進めた評者。また、泣いてしまった。熱い涙に、しばらくは余韻から醒めることが出来なかった。
by kotodomo
| 2006-07-23 10:14
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