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「本のことども」by聖月

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2006年 10月 05日

◎「クローズド・ノート」 雫井脩介 角川書店 1575円 2006/1


 昔むかしのその昔、評者が幼き頃、「ありがとう」とういうテレビドラマがあった。なんとヒロインが水前寺清子。その想いを寄せる相手、というかドラマ全編を通じて恋が成就すべき相手が石坂浩二である。なんで水前寺清子がヒロインだったんだろう?子供の目から見たら、単なる威勢のいい男気質風の女性歌手だったのだが、当時の大人から見たらどこか可愛かったのかしらん。まあいい。

 ネットで調べてみると、この「ありがとう」のシリーズ、3シリーズもあったのである。「ありがとう」が最終回を迎えると、新しく「ありがとう」が始まり・・・って、何が違うのかっていうと、設定が違うのである。シリーズ第一弾では、ヒロイン水前寺清子は婦人警官だったらしい。第二弾では、看護婦。うん、なんか覚えているぞ、思い出したぞ。第三弾では魚屋の娘。そうだった、そうだった。で、相手役の石坂浩二はっていうと・・・全編、美術大卒の八百屋の息子。本当か?評者の調べ方が足らんのか?まあいい。これ以上調べる気は起こらない。

 いや、何が言いたいのかっていうと、毎回、同じような設定のドラマで、視聴者は何を期待していたのかっていうと、ヒロインとヒーローの恋の行方である。最後には、こうなるだろうと思っていても、色んな障害があったり色んな事件が起きて、この二人の恋が中々成就しない、そんなことをじれったく思って観ていたわけである。どうせ、恋が成就するのは、最終回なんだけどさ。
まだまだ無駄話をすれば、その後ヒロイン大竹しのぶ、相手役草刈正雄の「ほんとうに」というドラマもあった。これも、結局は一緒。シリーズを通じて、最後の最後には二人の恋が成就する話。このドラマまでネットで調べる気は起こらないが、確か、どこか食堂だか旅館だか料亭だかの息子と、使用人の娘の恋のお話だったか・・・違ったら、ゴメン。

 結局、何が言いたいのかというと、結末がわかっているドラマでも、中盤、観る人が楽しめればそれはそれでいいのだということなのである。最終回、“ほら、やっぱり結ばれた♪”なんて思って・・・って、あんた第一話から結末わかっていたっしょ!なんて言うことは野暮な話で、楽しめればそれでいいのである。

 最近のドラマはもっと複雑になっていると思うが、それでも恋愛ものは似たようなもんじゃないかな。視聴者は、あらかじめわかっているというか、予想を立てながら観ているわけで、“きっと、こいつ悪いやつだよ”とか“いや、あのお腹の子の本当の父親はあの男だと思う”とか“あの人は、多分本当のお父さんなんだよ、でも言えないんだよ”とか、“ヒロインとあの男の人、くっつきそうで結局はくっつかないと思うよ”とか・・・そいでもって“やっぱり♪”“やっぱり♪”・・・って、わかってんだったら最後まで観るなよ、最初から観るなよ!なんて言うことは野暮な話で、みんなそんなして楽しんでいるのである。本当は、最近、評者、ドラマなんてちっとも観ないから知らないけど(^^ゞ独り暮らしなんで、他人がどんな風にドラマを観ているのか、知らんけどさあ、大体こんなものだろう。

 本書『クローズド・ノート』も、そんなお話である。序盤で、どういう話かわかり、中盤で終盤が予想され、終盤にさしかかると最後にどういう演出がなされるのかわかってしまう。それでも、その合間を構成するひとつひとつの場面の物語が、しっかりと読ませてくれるので、大体において面白いのである。

 独り暮らしのヒロイン。バイト先での男性客との出会い。その男性には見覚えが・・・以前、自分の住まいを見上げていた人物。ヒロインのクローゼットには、前の住人が忘れていったノートが。そこには、職場での話の他に、彼氏と思しき男性の記述が・・・これだけでもう、大筋の話はわかるってもんで、読書もしくはテレビだったら視聴者は“早く気づけよ!”状態である。でも、終盤まではきっと気づかないんだろうななんて諦観もあって、中盤の物語を読み進めていくわけである。

 しかし、その粗筋を埋めているヒロインの周りの風景が、中々に読ませる。ヒロインは大学生。バイトで通う文房具屋、そこで描かれる万年筆の世界とそれに対するヒロインの思い。決して薀蓄臭くならず、読者は、万年筆の世界はそんなに広く楽しそうなものだったのかと感じることになり、今度文具店に行ったら色々見てみようかな、眺めてみようかな、そんな気持ちにさせてくれる。

 ヒロインの所属するマンドリンクラブ。ここでは、そんなにマンドリンの細かい世界が描かれているわけではないが、各所に小道具として登場するこのマンドリンなる楽器に興味を覚え、知っているようでよく知らないマンドリンの調べを聴いてみたいなと、読後思うのは必至である。

 作者は、これまで意識してミステリーを書いてきている。もしかしたら、本書もミステリーのつもりで書いたのかもしれないが、例えば終盤の仕掛けも、その直前にはどんな仕掛けか読者は気づくわけでサプライズにはならないし、予想範囲内の話の展開にはミステリー性はない。それでも、小説としては中々に面白いわけで、そんな小説が書けたところに、この作者への今後の期待が高まる評者なのである。(20061004)

※色んな楽器を色んな人が奏でるわけで、評者がいつも思うのは、この人はなぜ、この楽器に出会ったのだろう、この楽器を演奏するようになったのだろうということである。そこで思い出したのが、評者の中学時代の同級生の話。中学一年のとき、まだ体が小さかったこの男は、ギターが欲しくてギター屋に。そこの店主に、キミはまだ小さいからギターは無理だと言われ、ウクレレを買わされたのである。彼は、そこでウクレレに出会い・・・弾いてはみたが本当はギターを弾きたかったわけで、結局ウクレレも弾かなくなり、そいでもってギターを買いなおすこともなく、楽器から離れてしまったわけで、そういう出会いもあるのである。これは、ウクレレとの出会いというよりは、変なギター屋の店主との出会いの結末。(書評No669)

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by kotodomo | 2006-10-05 10:33 | 書評 | Trackback(1) | Comments(2)
Tracked from 図書館で本を借りよう!〜.. at 2006-10-05 22:13
タイトル : 「クローズド・ノート」雫井脩介
「クローズド・ノート」雫井脩介(2006)☆☆☆☆★ ※[913]、国内、現代、小説、恋愛、携帯連載 オススメ!オススメ!オススメです! 正直、決して巧い作品ではない。さきの展開が読める、予定調和的な物語。都合のよすぎる部分。そして力(ちから)を持ちすぎているが故に物語という観点からすると浮いているエピソード。厳密に客観的に作品を評価するならば、決して高い評価に値しない作品。しかしそれでもぼくは高い評価を惜しまない。主観的に読めたことがとても嬉しい作品。四十歳のおっさんが作品の最後には...... more
Commented by すの at 2006-10-05 22:46 x
ぼくは、この作品も「優しい子よ」(大崎善生)と同じで、真実の力(ちから)の強さが涙を誘う作品だと思っています。予定調和的な物語で、どちらかというと、うまくない話、見える話なのですが、とてもよかったといわずにはおれない、そんな作品だと思います。いや、よかった、よかった。
Commented by 聖月 at 2006-10-06 09:16 x
すのさん おはようございます。

あとがきなんか読むと、作者の良心が感じられる一冊ですね。『優しい子よ』もそうでした。

うまく作ると、いいドラマになりそうなそんなお話。
どんな感じの人かな?ドラマの中の伊吹先生は(^_^)


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