2007年 04月 20日
多分、一般的に、本書『5』が佐藤正午初読みで、この作家と向き合うのはよろしくないだろう。主人公の行動哲学が常識的ではないし、果たしてこの作家が何を描きたかったのか、物語たかったのか、そういうところが、読む人の心に素直に入ってこないからである。 評者は、この作家とは長いつきあい(ファンとして)だし、結局この作家が何を描きたかったのかというのも、常々、作家自身が“小説”というものにこだわっているのを知っているので、つまるところ佐藤正午なりの小説の形の提示であることもわかっている。でも・・・初読みの人には、ちょっと無理がありそう。 初期の作品に『放蕩記』という作品があるが、本書の主人公の行動哲学にも相通ずるものがある・・・と言いたいところだが、評者が『放蕩記』を読んだのは、もう16年も前のことだし、詳しい内容は憶えていない。ただ本当に放蕩的な主人公の放蕩が、『放蕩記』という作品を彷彿させるのである。そう、本書の主人公の行動哲学は、結果としての放蕩にあるのである。 小説家としての主人公は、書きたいことを書きたいように書き、二回の筆禍事件を起こし、二回の結婚と離婚を経験し、出会い系サイトで知り合ったような女たちと出会うことで日々を消化していく。ただそれだけの話であれば、普通の作家が描いた普通の小説と変わらないのかも知れないが、やはりそこは佐藤正午で、不可思議な体験をした男の話とか、パーツモデルという職業の女を登場させながら、その職業について深く言及しないなどの芸当を織り交ぜて物語を進行させていくわけで・・・結局、この作家にとっての小説とは、芸当なのである。プロとしての芸当を披露してこその小説の在り方がここにあるのである。 そういう芸当を繰り返しながら、いつかこの作家は、本書の主人公が直木賞作家であるように、直木賞作家に近づいていくように思うのは評者だけなのであろうか。結局、小説は芸当であり、だから文芸という言葉があるのである。(20070416) ※評者が最初に佐藤正午という作家に出会ったのは・・・もう23年も前のことなのだなあ。一番つきあいの長い現役作家かな。あなたも考えてみたらいかがかな?一番つきあいの長い現役作家を。村上春樹って方が多いかもしれないが。(書評No710) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2007-04-20 11:15
| 書評
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Comments(2)
Tracked
from +++ こんな一冊 +++
at 2007-04-20 17:09
タイトル : 5*佐藤正午
☆☆☆☆・ 5佐藤 正午 (2007/01)角川書店 この商品の詳細を見る 『ジャンプ』から七年。著者会心の最高傑作。 結婚八年目の記念日にもらったチケットでバリ島に訪れた中夫婦。倦怠期を迎えた二人だったが、ある出来事をき... more
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from デコ親父はいつも減量中
at 2007-05-08 22:35
タイトル : 5<佐藤正午>−(本:2007年45冊目)−
角川書店 (2007/01) ISBN-10: 4048737252 評価:80点 著者の新刊って読むのは初めてだなあと思ったら、7年ぶりの長編だったのだ。随分と長い間何をしていたのだろうか。 この本の主人公のように破滅ギリギリの作家生活でも送っていたというのだろうか。 物語の展....... more
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浅谷
at 2007-04-20 17:12
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私にとって一番つきあいの長い現役作家はたぶん筒井康隆。「幻想の未来」を読んだのが始まり。あれからもう29年も経ったんですね。
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浅谷さん ご回答ありがとうございます(^_^)
筒井康隆という方も多いでしょうねえ。 私は、最初に嵌った作家というのは星新一だったのですが、途中で追いかけなくなったし、残念ながら亡くなっちゃたし。 大江健三郎なんか、佐藤正午より先に読んだ今でも現役の作家ですが、作家読みしていないし。 やっぱ、そういう意味で佐藤正午ですね。 |
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