「本のことども」by聖月

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2004年 10月 31日

◎◎「臨場」 横山秀夫 光文社 1785円 2004/4

b0037682_10311311.jpg よく、安楽椅子探偵などという惹句に呼び寄せられ、小説を読む手合いは多いと思うのだが、結局期待しているようなキレのある主人公に出会えないことが多いんじゃないかな。知らない方のために説明しておくと、この安楽椅子探偵物というジャンル、例えば椅子に座りながら誰も解決できないような事件のあらましを何気に聴き、“ああ、それってこういうことじゃないの。だから犯人はメイドだと思うよ”って、そんな解決に至るタイプの物語である。また、例えば、名探偵5人がお茶飲みながら、犯人はああでもない、こうでもないと言っているところに、執事が“ご主人様、失礼ながら・・・と考えると自殺ではないかと。あ、これは、失礼しました。身分も役割も考えず、とんだ発言をば”な~んて、お話である。

 こういう話の場合、探偵役はゆり椅子に揺られるご婦人だったり、足を怪我して動けない探偵だったりなのだが、肝心なのは、動かず、その場で提示されたものだけで推理することである。ただし、そういう楽しい設定の物語でも、大抵の場合その推理にキレはなく、まあ作者の企みとしてはわかるんだけど、イマイチなあ、という程度の作品が多い。

 本書『臨場』は、直截的には安楽椅子探偵物ではないが、こういうジャンルに興味を抱く読者には極上のキレを味わわせてくれる一冊かと思う。そして、多分、そういうジャンルに捉われなくても、今年最高のミステリー娯楽小説ではないかな。面白い本がないとお嘆きのあなた、楽しく読める本がないと溜息をついておられるあなた、本書はすこぶる面白い、読むべし、読むべし、べし、べし、べし、である。

 連作短編集たる本書の、各短編の主人公ではないが主役たる倉石は検視官。死体が出た現場に要請され、臨場し、その死体が語るところを読む。自殺か、他殺か、どのようにして死に至ったかなどなど。安楽椅子には座ってなどいないが、現場という限られた空間で、彼の出す答えは切れきれ切れきれ、キレまくりなのである。その上、男としての矜持がある。上の者に平気で物言い、下の者をどこかで見守り、無駄な発言を嫌い、真実を見極める心眼を持つ。有体に言って、カッコイイのである。多くの読者が、カッコイイと思うはずである。主役をカッコイイと思う物語なら、面白くないはずもないのである。読むべし。

 実は評者、横山秀夫の作品は漏らさぬことなく読み続けているが、特に横山ファンというほどのものではない。新作が出たと聞いても疼かないほどには。まあ、上手い、はずさない作家だからというような理由で読み続けてきた。しかし『第三の時効』を読んだときに、これだけのキャラの立つ作品を書き続けるなら、ずっと読んでいきたいと感じ、本書を読んで、やはりこの作家読み続けようと胸の裡で決めたのである。それほど、本書の人物造形は際立っているし、その魅力、話の展開、どれをとっても一級品である。頁を繰る手を止ませない。

 惜しむらくは、この検視官シリーズ、ずっと続けてほしいものだと思いながら読んだのだが、最後の作品の中で、続いていかないような設定が見え隠れしており、それが何とも残念である。

 評者なら、好悪とか抜きに、この完成度、このミステリー度において、本書を今年2004年のミステリーのベスト1に迷わず選ぶ、確定的高位にある傑作であると断言する。未読の方、読むべし。本書には、愛がある。(20041030)

※横山作品は、やはり短編集にキレがある。(書評No426)

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by kotodomo | 2004-10-31 10:31 | 書評 | Trackback(7) | Comments(7)
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Commented by でこぽん at 2004-10-31 20:45 x
聖月様、こんばんは。
それにしても"様"が定着しちゃったなあ。やはり聖月さんには"様"がお似合いだってことかしら。
今朝は敬称脱落騒動でつい見過ごしてしまいましたが、『臨場』が◎◎だったのですね。
もうすっごく嬉しいです。
これは、横山作品の中でも特に好きな作品です。
一つ一つの話がとてもよく出来ていて、ほろりとする作品ばかりでした。
ほんとに倉石検視官シリーズでもっと書いてほしいものです。
Commented by 聖月様 at 2004-10-31 22:59 x
でこぽんちゃん こんばんは 
『臨場』素直に手放しでよかったですね。
まさしく、この本を読め!っていいたくなるような、完成度の高い物語堪能でした。
初期の横山作品て人間味薄くて感情移入できなかったのですが、最近の作品はいいですね。
この作品は特に愛があります。

今、京極新作読了したところで、これから『ニューヨーク』ベヴァリー・スワーリング入ろうかと。
重いでっせえ、この本。筋トレになりそうです(^.^)
Commented by 聖月 at 2004-10-31 23:00 x
おお!マイレコ参加で、付録に新刊情報とは。
お得なり。
Commented by x_SNOOPY_x at 2005-03-19 17:00
初めまして♪サーフィンでたどり着きました☆
SNOOPYはっ倉石検視官のっ大ファンです☆
次回作でっきっとさよならしてしまうのだとっSNOOPYも思っています☆
だからっ早く読みたいけどっ発刊して欲しくない…
そんな複雑な心境です☆このblog♪っ最高です☆
リンクって帰りますヾ(=^o^=)ノ
Commented by 聖月 at 2005-03-19 17:46 x
x_SNOOPY_xさん 初めまして
倉石検視官かっこよかったですね。
横山秀夫の描く男の矜持というものがピッタリはまった人物でしたね。
そうですね、続編読みたいですね。
今後とも宜しくお願いいたします。
こちらもリンク張りました。素敵にカスタマイズされたブログで驚きました。
Commented by L.F.C at 2006-11-19 15:02 x
はじめまして、聖月さん。いつも書評参考にさせていただいてます。
今回、こちらの書評がキッカケで読んだ臨場がとても面白かったです。
登場人物が魅力的な人ばかりで最高に気持ちいい読書が出来ました。
文庫化されたら是非とも手元に置いておきたい一冊となりました。
ということでお礼のコメントを書いてみました。
これからもこの書評ブログでたくさん面白い小説に出会えるといいです。
ちなみに今はハーラン・コーベンが気になってます。
先日、図書館で予約したところ一気に3冊も予約準備が出来てしまい嬉しい悲鳴をあげております。
Commented by 聖月 at 2006-11-19 15:11 x
こんにちは、L.F.Cさん(^.^)
横山秀夫は誰もが認める短編の名手ですね。
特に、『第三の時効』から後の作品は、それまでより、作品に芯のようなものがありますね。
『臨場』も、主人公の中に見えない哲学や男の矜持みたいのが窺い知れてよかったですね。
お礼なんか(^^ゞ誰もが認める作家ですから。

ただ、ハーラン・コーベンは今更取り上げる人が少ないので、もしお気に召したら幸いかと。
細かい遊びが文章に内包されて、物語の筋も実に軽快。舐めるように、でも繰るように、そんな読み方ができる娯楽小説かと。

最近の私はちょっと読書離れ・・・でも今日は落ち着いて読書中『禿鷹狩り』・・・もうすぐ読了(^^)v今後ともヨロピクなのです。


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