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2008年 08月 19日
その昔、『人麻呂の暗号』藤村由加を読んだことがあるのだが、あの本の好きくないところは、自分たちが色々と研究して歌に秘められた謎を解明しようとするのだが、何かあるとアガサという女性に相談をもちかけ、その女性が都合よく示唆して物事が順調に進むという部分が、あまりにも安易に映ってしまうからであった。例えば、海外物なんかでも、どこかの一室にナントカクラブなんて称するメンバーが集まって、ああじゃないこうじゃないと議論するのだが、最後には執事が解明してしまうという安楽椅子探偵物みたいなのがあるわけで、最初は面白いと思うのだが、そのワンパターンに安直さを感じ、評者的にはすぐ飽きがきてしまうのである。 今回、本書『名残り火』を読みながら気になったのが、そういう便利な人物の存在である。三上という中々のキャラクターではあるのだが、主人公が何か相談事めいたことを持ちかけると、すぐに道筋を示してくれて、あまりにも便利すぎるのである。イオリンらしくないのである。おかげで主人公の魅力であるヘトヘトなハードボイルド部分が影を潜めてしまって、魅力に欠けてしまっているところが残念なのである。 話は柿島の死から始まる。柿島?誰?と思って、慌てて前作『てのひらの闇』を再読した評者。おお、主人公にとって、随分と大事な人物の死である。前作で、飲料会社の希望退職に応じた主人公の良き相談相手でもあり、飲み友達的な信頼関係にあった人物でもある。その柿島が、オヤジ狩りにあって死んだところから、今回の物語は始まるのである。当然、主人公としては、単なるオヤジ狩りでなく、意図を持った殺人として背景を探り始めるのだが・・・。 前作に比べ、今回は全体的にイマイチである。主人公のハードボイルド度合いが低いし、女性とのロマンス度合いも期待以下だし、謎の蓋然性も薄いし、それと前述したご都合主義的解決が随所に散見され、いつものイオリンらしくないのである。 しかし・・・イオリンはもういないのである。ガンで亡くなっちゃったのである。“このミス”に誰かが書いていたけど、あの稲見一良よりもずっと若くでこの世からいなくなったのである。次作に期待しようもないのである。 もし、イオリン知らない方がいたら、とにかく『テロリストのパラソル』を読んで欲しい。短編『雪が降る』を読んで欲しい。それで気に入らなかったらそれでいい。気に入ったら、とにかく前作読むべし。著者による出来、不出来はあるが、他にこれほどのハードボイルド作家はいなかったなあという思いになるはずである。稲見一良も藤原イオリンも原りょうも、他の追随を許さぬ孤高のハードボイルド作家なのだから。(20080819) ※孤高は死んでも孤高なり。(書評No827) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2008-08-19 16:54
| 書評
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