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「本のことども」by聖月

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2008年 11月 04日

〇「ザ・ロード」 コーマック・マッカーシー 早川書房 1890円 2008/6

〇「ザ・ロード」 コーマック・マッカーシー 早川書房 1890円 2008/6_b0037682_13374181.jpg 評者は幼い頃から夢想家であり、例えば布団にもぐり込み天井を眺めながら、もしもこの家の構造が逆さまになったら・・・なんてことを考え、、、ということは、この茶の間から隣の部屋に移動するには、あの鴨居を跨がねばならんのだなとか、トイレに入るにはドアが随分上のほうにあって大変だなあとか夢想するわけである。実に意味のないことだが。ついでに言っておけば、トイレに入っても便器が上じゃできないじゃんという声が聞こえてきそうだが、とりあえずそれは考慮外で、移動についてのみ考察する僕ちゃんなのである。

 また、評者の住んでいるのは鹿児島市。目の前に錦江湾が広がり、雄大な桜島がそびえており、市内から桜島まではフェリーで15分というところなのだが・・・錦江湾の水が全部なくなったら、桜島まで歩いて渡れるなあと夢想するわけである。でも、途中に大きな岩があったり、もしかしたら地溝があったりして大変かも、なんて想像で心配したりするわけである。実に無意味な夢想であるが。

 しかし、やはり究極の夢想は、この世から一瞬で周りの人がいなくなったら、というやつである。一応、この夢想は、色々と自分で条件付けが必要で、①テレビ放送や、電気、水道の供給も一瞬に止まることとする、とか②みんながいなくなったことに、自分が素早く気付いていることにする、だとか③一瞬にしていなくなると、道路に車が放置されることになるが、そんなことはなく、世の中は一応整然とした状態のほうが夢想しやすいなあとか、自分で考えやすい状態を作って夢想するわけである。

 食う、寝るは、一応保証されるだろう。人ん家に入って缶詰なんか食い漁って、ローソンでジュース飲んで、夜はビール飲んで晩酌して、でも刺身は食えないなあとか、屋根と布団はどこにでもあるのでノープロブレムだし(鹿児島でしか物を考えていない。これがシベリヤだと大変、大変\(◎o◎)/!)、そいでもって、食う、寝る、遊ぶの、遊ぶのほうなんだけど、まあ本屋、図書館はそのままの状態という条件付けをすれば、本でも読んで暮らすかなあってとこである。そういうことを夢想するとき、例えば車は燃料が残った状態で存在していることになっているので、鍵さえ見つけ出せれば乗り捨てで使い放題なわけで、問題は・・・さほど問題じゃないのだけど、交差点で曲がるとき、いつもの癖でウィンカー出すんだろうなあということくらい?誰もいないのに、無意味なのに。

 無駄話が多くなったが、本書『ザ・ロード』は近未来?の、例えば人類がほとんど滅亡した後の、数少ない生き残りになった父と息子のロードノベルである。なぜ、そういうことになったのか(原爆?惑星衝突?)も語られず、ただ父と息子の道行きだけが描写される物語なのである。

 既読の、著者の『すべての美しい馬』も、広義の意味でロードノベルであり、少年と馬の友情、愛、冒険といったものを、しんしんと深深と森々と描いたものであった。本書の持つテーストも同様のものがある。ある意味、冒険物でありSF風味なのだが、降積る雪のように、しんしんと言葉と描写が綴られ、大きなうねりもなく終盤に至る。

 あとがきにも書いてあったが、北斗の拳の世界を想像するとわかりやすいだろう(って書きながら、実は評者は漫画もテレビアニメも見たことない。パチンコで打ったことあるので、多分そうじゃないかと・・・)。崩壊し砂埃が舞うような世界。少年と父親は、既に荒らされた家屋、店、そんな場所で、役に立ちそうな物、隠されていた食べ物、そんなものをピックアップしながら南に移動していく。似たように生き残った人々もいる世界、既に多くの場所が探索されつくした後で、食糧なども中々手に入らない旅行きである。人が人を食べたような残骸もあり、生き残った他の人々に出会っても、そこに喜びはなく、警戒心だけが存在する。信じられるのは、自分たちだけなのである。

 とにかく独特の世界観だけを語る物語である。設定はSFでも、内容は冒険でも、SFや冒険につきもののスリルやサスペンスはそこにはなく、ただ文学が語られるだけである。要するに、何を言いたいかというと、インパクトはないよ、ということである。それでも、良質の文学には間違いない作品である。

 粗筋もないと言い切っていいくらいで、そういうのが好みでない方には、『すべての美しい馬』のほうがお薦めかもしれない。(20081030)

※昨年のこのミスで『血と暴力の国』がランクインした著者だが、本書はその手の本ではない。(書評No838)

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by kotodomo | 2008-11-04 06:34 | 書評 | Trackback | Comments(2)
Commented by 八方美人男 at 2008-11-06 08:45 x
いや、たしかに「北斗の拳」が近いといえば近いですが、べつにモヒカン男たちが「ヒャッハー!」とか言って暴れまわっている、と思っていると肩透かしをくいます(笑)。

『ザ・ロード』の世界は人間がもっと元気がない世界。人間を書くのが小説の目的のひとつであれば、作品自体にインパクトがないのもしょうがないといえばしょうがないことではあります。
Commented by 聖月 at 2008-11-06 09:16 x
八方美人男さん こんにちは

まずは、近況ですが、最近、月に最低1回、大体2回ほど上京しています。また機会を見つけて声をかけてください(^.^)

ヒャッハーはないですね(笑)。ただ、どんよりとした空とか、荒みきった町とか雰囲気的に・・・って、北斗見たことないのですが(^^ゞ

まあ、ひとつの文学ですよね。「すべての美しい馬」のほうが、好きな文学だったですが。


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