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「本のことども」by聖月

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2004年 10月 04日

◎「好き好き大好き超愛してる。」 舞城王太郎 講談社 1575円 2004/7


 9月の「敬老の日」、「秋分の日」というふたつの連休を利用して、鹿児島に住む家族との一緒の日々を満喫した、東京単身赴任中の評者なのである。

 最初の連休には評者が鹿児島へ帰省。鹿児島へ旅立つときの、羽田空港でJALがアナウンスしているのに気付く。ええと、なんでも北海道行きの便がオーバーブッキング。客席以上の予約を取ってしまったようである。2時間半後の便に変更してくれるお客様がいないかアナウンス。いるのか、そんな人?えっ!ご協力金として1万円!いるよ、そんな人。早速、鹿児島空港に迎えにきてくれた嫁さんに、その話を報告。“私だったら、間違いなく後の便に変更してお金貰うよ。だって、時給4千円よ。それに家族4人とかだったら4万円よ♪”タイムイズマネー、マネーイズタイムな評者の嫁さん(^.^)で、鹿児島で楽しく過ごした評者。

 後ろ髪引かれながら、鹿児島空港を出立するとき、なんと出発便の遅れの表示が!1時間30分も!申し訳ございませんと言って、カウンター嬢が何やら一枚の紙切れを評者の手に。おお!時給換算すると6千円札か?って、あるわけないと思いながら手のひらの紙切れに目をやると、500円の喫茶クーポン。しょぼい。お願いするときは、一万円なのに、機材遅れという自らの大いなる失態に、500円の喫茶クーポンとはこれ如何に!と思いながらも、そこは趣味が読書の評者みたいな輩には苦に思わない待ち時間。普段頼まない475円のコーヒーフロートを飲食しながら、本書『好きすき大好き超愛してる。』を読み始める。読みながら、搭乗。羽田に到着する前に読了。飛行時間は1時間30分。大体、そんなボリュームの芥川賞候補作品である。プラス「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」という同じくらいのボリュームの作品が収められて一冊になっている本書である。面白いのは、この収められたふたつの作品、それぞれに紙質やフォントや頁数あたりの文字数が違っているので、なんだか1冊で2冊分の体裁である。

 で、次の連休には、嫁さんと二人の娘が東京へ。ホテルで2泊。評者の住まいに1泊。行楽先は東京ディズニーランド(TDL)&シー(TDS)。嫁さんと娘たちは毎年のように行っていたのだが、評者のTDL最終履歴は上の娘が2歳のときだったから8年前。当時と今回と比べて明らかに違うこと発見!!!例えば、評者の娘たちはプリンセスの衣装とか、キャラクターの着ぐるみを欲しがり、こんなの家でしか着れないよと思いながら、何だか可愛らしくもあるので、適当に買ってあげてきた評者と嫁さんではある。一番傑作だったのは、下の娘にみつばちプーさんの着ぐるみを買ってあげたとき。プーさんなんだけど、みつばちの格好のプーさん。背中に可愛い羽根つき。それを着た娘が、椅子から何度も何度も飛び降りるのである。何してるの?って訊いたら、飛べないの(ToT)と哀しい顔。そんなことは閑話休題。今回わかったのは、衣装や着ぐるみもTDLに着ていけば違和感がないという事実。下の娘はティンカーベルの格好で行ったのでした。そんなことも閑話休題。本筋の話は、8年前と今とTDLやTDS(は昔はなかったが)の様子が明らかに違うこと。明らかに下の娘のようなコスプレが多いという事実である。カチューシャにネズミの耳がついたような初歩的なものも多いが、そのまんまシンデレラ、まんまミニー、まんまアリス、まんま魔法使い(多分白雪姫あたりの)、まんまカボチャ(ハロウィーン)などなど。珍しくもなんともない。他人との差別化もこう多くちゃできない。じゃあ、なんでコスプレ?少し考察する。アーティストのコンサートに行く。アーティストにちなんだロゴ入りTシャツだけじゃなく、アーティストに扮装したような衣装の観客。野球場にお気に入り球団のユニフォームで行く野球少年たち。ガンバレニッポン、オーレオレのジャパンブルーにフェイスペイント日の丸の俄かサッカーファンギャル。要するにお祭りに一体化が目的なのである。目立つとか目立たないとか恥ずかしいとかじゃなく、日常を離れ、その場に一体化した自分であることが大切なのである。で、問題なのがデブチンの女性のコスプレなのである。心の中で“こら!デブ!お前がそんなカッコすな!”と言いたくもあり、でも俺はジェントルマン。彼女らもそうやって、楽しんでいるんだよな、と無理に共感を心中装っていたら、我が心優しき嫁さんが言う。154センチ、76キロの27歳の女性を見て言うのだ。“ああいう人たちに、ああいう格好をしてほしくない”と。普段、評者がそういう発言をしようものならたしなめる嫁さんがである。身障者に進んで手を貸すような嫁さんがである。障害児教育に精魂費やし、差別など大嫌いな嫁さんが、デブチンを差別するような発言をしたのである。“どうして”と評者。嫁さんが答える。“2年前来たとき、アリスの格好をした人がたくさんいて、デブの人もたくさんいて、下の娘がアリスはあんなはずない!本物のアリスはどこ!って泣き出したの。子供の夢を壊しちゃうのよ”自由な服装VS子供の夢。とりあえず、嫁さんは自分の娘が可愛いわけだから、嫁さんの中では子供の夢に軍配なのね。

 ああ、そうだった、そうだった。コスプレの話じゃなかった。家族との和気藹々の話であった。前泊ホテル、一日目TDS、2泊目ホテル、二日目TDLを楽しんだ嫁さんと二人の娘は、初めての“東京のパパの家”訪問&宿泊。もう大騒ぎ。狭い部屋を探検。積み上げた本を倒す下の娘。パパの部屋のゴキブリホイホイのかかり具合を是非見たいと覗く変な趣味の上の娘。眠って、起きて、大騒ぎして、近所を散歩して、帰ってきて大騒ぎして、パパの会社を見学して大はしゃぎして、羽田ではなく浜松町までパパと一緒で。手を振って別れた評者は、自分の部屋へ。さっきまで、子供たちが大騒ぎしていた部屋へ。今は一人。淋しくなって、こう思う『好き好き大好き超愛してる。』

 本書の表題作『好き好き大好き超愛してる。』は、舞城王太郎の『好き好き大好き超愛してる。』を表現した作品である。当たり前だがそうである。決して恋愛小説などではない。『好き好き大好き超愛してる』を舞城が表現した作品である。好きで、好きで、大好きで、超愛してるってことを表現するのはこれしかないというアートな作品なのである。勿論、通常の日本語を無視したような、自由でパンクな舞城節も内在。それでいて多分文学。認めないという人も大勢いるであろう、舞城文学でアートな小説なのである。単純に評者は好き。感性の違う人には“これ、なに?”みたいな阿呆に映るアートな文学なのである。昔流行った「骨まで愛して」という歌。この作品、評者より上の世代にはわかりにくい表現なのかもしれないが、あの歌をバカ歌じゃなく好んだ上の世代の方たちへ。「骨まで愛して」るっていうことは、こういう表現なんですよ。

 『好き好き大好き超愛してる。』って思った評者は、別れたその夜嫁さんにメールしたのです。まんま掲載“件名:無事に帰り着いて何よりでした。本文:脈絡はないけど、ママと結婚できてよかった。子供たちと出会えて幸せだった。そんな3日間でした。またおいで。”(20040920)

※こういう作品で芥川賞とってもよかったんじゃないかな舞城。若者読者のためには。よくわかんないけど、わかるう、みたいな文章で。(書評No407)

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# by kotodomo | 2004-10-04 14:29 | 書評 | Trackback(7) | Comments(10)
2004年 10月 04日

◎◎「おんみつ蜜姫」 米村圭伍 新潮社 1890円 2004/8

◎◎「おんみつ蜜姫」 米村圭伍 新潮社 1890円 2004/8_b0037682_2034189.jpg 本のことども」が3年を突破し、400冊をクリアしたのは、これはマイニュース。じゃあ、一冊目は何だったの?という疑問は、「ことどもフリーク」にとって、これは必須知識。さあ、あなたはこの場で答えられるかな。答えは『風流冷飯伝』米村圭伍である。

 このサイトを始めた当初は、読了した本を書評するという今のスタイルではなく、とにかくお薦めしたい本を紹介していこうという気持ちでいっぱいだった評者。あまり読まれていないかもしれないけど、これはお薦め、読んでみて、の本を紹介して、日本全国の人気サイトにのし上がろうと、勘違い甚だしく意気込んでいた評者なのである。その第一発目が『風流冷飯伝』。とにかく、風流で、長閑で、少し滑稽で愛らしい人物たちが登場するこの本を紹介したい、みんなに読んでもらいたいと選んだ作品なのである。評価は○にしている当時の自分だが、今の自分が再評価するなら◎である。当時は、自分の評価に自信がなかったようである、評者(笑)。

 その後、シリーズ第二作『退屈姫君伝』を読んだのだが、◎◎の評価にもかかわらず、当時の週2冊更新というスタイルと、あまりに面白すぎて言葉に落として書評にすることを躊躇い、結局、紹介しなかった評者。当時(バージョン2)の頃は、初心を忘れ、バイタリティーもなかったようである、評者(笑)。

 そして、シリーズ第三作目『錦絵双花伝』(2003/9文庫化に際し題名を『面影小町伝』に改め)を読み始めた評者だったのだが、シリーズ二作目までの長閑な雰囲気より少しおどろおどろした謀略的な展開に、3/4まで読み進めて、加えて図書館の期限のため最後まで読まずにそのままにしてしまった過去を持つ。当時(バージョン3)の頃から、意外に本に対する執着心がなかったようである、評者(笑)。

 そういう流れの中で、三部作に接してきた評者なのだが、本書『おんみつ蜜姫』でシリーズ四作目を手に取る。う~む、ふ~む。こりゃあ、あれだね。少し、音色の違う三作目『錦絵双花伝』を省いて、『風流冷飯伝』『退屈姫君伝』そして本書『おんみつ蜜姫』を小藩三部作と位置づけたほうがいいな。間抜けた雰囲気が共通してるし。あっ!今書いていて気付いたけれど、三部作とか四部作とか書いていたが、どういう〇部作か説明していなかったことに気付いたべ。色々言い方はあろうと思うが、評者としては直前に書いたように、江戸を舞台にした「小藩三部作」と呼びたいと思っている。

 『退屈姫君伝』のめだか姫に続き、今回も愛らしい姫が主人公である。ただし、めだか姫と違い、武芸に秀でちょっと無鉄砲、でいながら、潔さは二人の姫とも共通したところがあるので、『退屈姫君伝』が面白かったという読者には、超お薦め。

 九州の小藩におわす蜜姫。馬で散歩の途中に、連れ立っていた父上の危機を救う。なんで父上のような弱小藩の殿様が狙われるのか問いただすと・・・近鉄、オリックス合併じゃないけれど、小藩同士の合併劇が画策されておったとな!それにしても、父上を狙った者は何者ぞ?と思った無鉄砲な姫は、おんみつの旅路へ。ここで、風流にも滑稽にも暢気にも「おんみつ蜜姫」と自分を名づけたのは姫自身だし、母親も路銀をたっぷり持たせて姫を送り出すから、その後の愉快そうな展開に、後は身を任せるだけの読み手の評者だったのである。また、オジサン読者としても、愛くるしい姫という設定は、やっぱり読んでいて楽しくて仕方ないのである。

 この三部作、どれから読んでも問題はない。問題はないが、本書『おんみつ蜜姫』でもシリーズ一作目で活躍した冷飯浪人たちが登場するので、その人物たちの位置づけをわかった上で読んだほうが楽しさ倍増すると思うことから考えると、出来ればシリーズ順に読んだほうが楽しいのかな。『風流冷飯伝』『退屈姫君伝』は既に文庫化。外伝たる(って、本当はそうじゃないんだけど、評者が勝手に三部作からはずしてしまったので)『錦絵双花伝』も、『面影小町伝』として、既に文庫化。『退屈姫君伝』まで読んで、一気に『おんみつ蜜姫』にいってもいいし、外伝文庫『面影小町伝』でたたらを踏んでから、『おんみつ蜜姫』の文庫化を待つのも一興かと。とにかく評者が言いたいのは、『風流冷飯伝』『退屈姫君伝』『おんみつ蜜姫』の小藩三部作は、読むべし、読むべし、べし、べし、べし!!なのである。(20040920)

※シリーズとは別の既評『紀文大尽舞』も同様の面白さがあるが、これは途中までしか続かない。途中から謀略小説的な雰囲気に変わってしまったのが惜しかった。『影法師夢幻』は、これもやはり図書館の期限のために、冒頭50頁くらいしか読んでいない評者。今度読もうかな。(書評No406)

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# by kotodomo | 2004-10-04 14:05 | 書評 | Trackback(8) | Comments(21)